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Revision as of 03:04, 5 October 2012
統計的時系列解析が明らかにする生命ダイナミクス(仮)
講演者: 廣島 通夫(RIKEN・QBiC)、近藤 洋平(東京大学総合文化研究科)、大森 敏明(神戸大学大学院工学研究科)
日時
TBA
Chair
TBA
概要
ErbB受容体の反応調節機構の1分子解析
- 廣島 通夫(RIKEN・QBiC)
細胞膜受容体であるErbBファミリータンパク質は、細胞外シグナルを細胞内に伝える際に、会合体形成を通じてシグナル伝達の調節をおこなうことが示唆されている。この調節メカニズムを詳細に調べるため、我々はErbBの細胞膜上での動態や、細胞内シグナル分子との相互作用、リガンドとの反応キネティクスについて、1分子計測を用いた研究を進めている。
1分子計測によって、多くの場合、個々の分子の位置や輝度の情報を含む時系列データが得られる。しかし解析手法の限界から、大抵においてこれら空間や時間に関する情報を失うような統計処理に頼らざるを得なかった。細胞での分子反応には局所的あるいは段階的に調節を受けるものも存在するため、データに含まれる情報を損なわず、いかに有効に活用できるかが重要となる。
GFPを融合させたErbB1の動態を細胞膜上で1分子計測することで、輝点位置と蛍光強度の時系列データが得られる。拡散の解析において通常計算されるMSD(平均二乗距離)は分子の平均的挙動の時間発展を表すため、各時刻における分子の位置情報は反映されず、さらに運動の性質が中途で変化する場合は誤差が多くなる。そこで本研究では、時系列データに隠れマルコフモデルを適用し[1]、輝点軌跡から運動状態を、蛍光強度から会合体サイズを時々刻々推定することで、各々の分子が、いつ、どこで、どのような状態にあるかを特定できるようにした。さらに、下流シグナル分子との相互作用についても二波長を用いた1分子計測をおこない、同様の手法によって解析した。これらの結果から、ErbB1の滞在領域や会合体形成が、分子間反応と密接に関連することが示された。
一方、ErbBと蛍光リガンドとの結合および解離を1分子計測し、それぞれのレートを算出するとともに、反応機構のモデルを構築した。モデルから、単量体や二量体のErbBと結合するリガンド分子数によって3種類の結合親和性が現れること、二個目のリガンドが結合した二量体では速やかなキネティクスの変化が生ずることが示唆された[2]。これらの機構は細胞が、リガンド濃度の変化に感度良く、素早く応答することに役立つと考えられる。
本講演では、1分子計測で得られた結果を、新たな解析手法や反応機構モデルと組み合わせることで新たに見えてきた、ErbBによる細胞シグナル伝達の反応調節機構について詳述する。
参考文献:
[1] Low-Nam S., Lidke K., Cutler P., Roovers R., van Bergen en Henegouwen P., Wilson B., Lidke D.
ErbB1 dimerization is promoted by domain co-confinement and stabilized by ligand binding.
Nature Str. Mol. Biol. 2011;18(11):1244-1250.
[2] Hiroshima M., Saeki Y., Okada-Hatakeyama M., Sako Y.
Dynamically varying interactions between heregulin and ErbB proteins detected by single-molecule analysis in living cells.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2012;109(35):13984-13989.
一細胞時系列に基づくメカニズ厶の抽出と再構成
- 近藤 洋平(東京大学総合文化研究科)
近年の生細胞イメージング技術は細胞が示すダイナミクスを高い時空間分解能の元で明らかにしつつある。それに伴い、数理モデルによるダイナミクスの解析の重要性が大きくなっている。しかし多くの場合に、システムのノイズや強い非線形性、観測できない変数の存在といった問題が信頼できるモデルの構築を阻んでいる。この問題に対処するために我々は、統計的機械学習に基づいたモデル推定手法を提案する。モデルとして確率微分方程式、データとして一細胞時系列を用いるため、ダイナミクスのノイズに内在する情報をも活用することができる。特に本研究では、低次元のモデルを用いて学習することで、対称性や分岐構造といった観測されたダイナミクスを説明する数理モデルがもつべき基本的性質を抽出することを目指す。
人工データを用いて提案した手法の有効性を確認した後、社会性アメーバ(Dictyostelium discoideum) の細胞間シグナル伝達系を解析した。学習の結果、シグナル伝達を担っているcyclic AMP分子の細胞質における濃度ダイナミクスを精度よく記述するモデルが得られた。さらに学習したモデルを細胞間相互作用を考慮した上で多数結合することによって、多細胞レベルで観測される時空間パターンをも再現できることが明らかになった。この結合モデルの解析によって、多細胞ダイナミクスの生成メカニズ厶について学習モデルに基づいた一細胞レベルからの説明を与えることができた。本発表では解析手法とその応用研究の進展について、併せて報告したい。
参考文献:
pubmed URLではないのですが、解析手法に関して書いたプレプリントが
http://arxiv.org/abs/1208.4660
にあります。
TBA
- 前多 裕介(京都大学白眉)
細胞間フィードバック回路を用いたパターンの作製
- 松田 充弘(京大・生命学研究科)
近年、生物機能を構成的に理解しようという取り組みが盛んになってきています。そこで私たちは、多細胞生物にみられる様々な細胞のパターンに着目し、それがどのようにして実現されているのかといった問題に、細胞内に遺伝子回路を作製しパターンを再現することで取り組んでいます。
今回私たちは、Delta/Notchシグナル伝達経路を利用して、接着依存的な細胞間ポジティブフィードバック回路を細胞内に組み立てることで、細胞集団における空間的なシグナル伝播パターンを生み出しました。これは隣接した細胞のDeltaによって活性化されたNotchの下でDeltaの発現が誘導され、そのDeltaが隣の細胞にシグナルを伝えることでDeltaの発現が伝播していくものです。シグナルの伝播には、そのシグナル伝達の高いヒル係数と十分な増幅が必要であると予想されました。そこで数理モデルとシミュレーションを参考にして、Delta/Notchシグナルを増幅するために転写カスケードを2段階にし、Notchの正の制御因子であるLunatic fringeを用いたところ、この遺伝子回路が組み込まれた細胞でシグナル伝播パターンが見られました。またさらなるシミュレーション解析から、細胞集団における双安定性とシグナル伝播の実現条件は同じであることがわかりました。これらの結果は細胞間ポジティブフィードバックが、シグナル伝播パターンと細胞集団における双安定性の実現に十分であることを示しています。
現在私たちは、別の細胞間ポジティブフィードバックを用いた側方抑制パターンの作製に取り組んでおり、あわせて発表できればと考えています。また生物にみられる様々なパターンがどのようにしてできるかについて議論したいです。
参考文献:
Matsuda M, Koga M, Nishida E, Ebisuya M.
Synthetic signal propagation through direct cell-cell interaction.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22510469
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