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From Japanese society for quantitative biology
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==15:45-16:15  生命の起源を追体験する==
 
==15:45-16:15  生命の起源を追体験する==
*水内 良 (京都大学)
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*水内 良 (早稲田大学)
 
*要旨:原始生命は約40億年前にRNAなどの単純な分子の自己複製体として誕生した後、進化によって徐々に複雑化してきたと考えられている。この観測不能な生命の起源過程を理解するため、私たちは様々な原始複製体の実験モデルを構築し[1–4]、実際に進化させることで、ありえた道筋を直接的に調べている。本講演では特に、少数のRNAとタンパク質を組み合わせて構築したRNA複製システムの進化に関する研究[3–5]を中心に、最新の成果を紹介したい。本システムは複製酵素をコードしたRNAゲノムと無細胞翻訳系で構成され、RNAが複製酵素の翻訳を介して自己複製するだけの原始的なシステムである。本システムを細胞を模した油中水滴に封入し、一連の実験サイクル (培養、希釈、栄養供給) を繰り返すと、RNAが複製し続け、突然変異が生じて自発的に進化する。近年、RNA複製システムを長期的に (約600世代) 進化させたところ、最初は1種類の複製体であったRNAは5種類の異なる性質をもつRNAに分化し、それらが互いに複製し合うネットワークへと複雑化することを見出した[3]。また生命の誕生には様々な機能の出現が必要であり、全く新しい機能が生まれる過程は未だ不明であるが、人工的に新機能を付与することはできている。例えば複製を担うRNAの他に代謝を担うRNAを導入して進化させたところ、それらの協力関係が強化された[4]。さらに近年、この進化を継続したところ、2種類のRNAが複製も代謝も可能な一本の長いRNAへと繋がり、より複雑なシステムへと進化した[5]。本講演ではこのように実験室で生命の起源にありえた過程を追体験する試みについて議論したい。
 
*要旨:原始生命は約40億年前にRNAなどの単純な分子の自己複製体として誕生した後、進化によって徐々に複雑化してきたと考えられている。この観測不能な生命の起源過程を理解するため、私たちは様々な原始複製体の実験モデルを構築し[1–4]、実際に進化させることで、ありえた道筋を直接的に調べている。本講演では特に、少数のRNAとタンパク質を組み合わせて構築したRNA複製システムの進化に関する研究[3–5]を中心に、最新の成果を紹介したい。本システムは複製酵素をコードしたRNAゲノムと無細胞翻訳系で構成され、RNAが複製酵素の翻訳を介して自己複製するだけの原始的なシステムである。本システムを細胞を模した油中水滴に封入し、一連の実験サイクル (培養、希釈、栄養供給) を繰り返すと、RNAが複製し続け、突然変異が生じて自発的に進化する。近年、RNA複製システムを長期的に (約600世代) 進化させたところ、最初は1種類の複製体であったRNAは5種類の異なる性質をもつRNAに分化し、それらが互いに複製し合うネットワークへと複雑化することを見出した[3]。また生命の誕生には様々な機能の出現が必要であり、全く新しい機能が生まれる過程は未だ不明であるが、人工的に新機能を付与することはできている。例えば複製を担うRNAの他に代謝を担うRNAを導入して進化させたところ、それらの協力関係が強化された[4]。さらに近年、この進化を継続したところ、2種類のRNAが複製も代謝も可能な一本の長いRNAへと繋がり、より複雑なシステムへと進化した[5]。本講演ではこのように実験室で生命の起源にありえた過程を追体験する試みについて議論したい。
  
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**[4] Mizuuchi & Ichihashi, Nat. Ecol. Evol., 2, 1654–1660 (2018). https://doi.org/10.1038/s41559-018-0650-z
 
**[4] Mizuuchi & Ichihashi, Nat. Ecol. Evol., 2, 1654–1660 (2018). https://doi.org/10.1038/s41559-018-0650-z
 
**[5] Ueda et al., PLOS Genet., 19, e1010471 (2023). https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1010471
 
**[5] Ueda et al., PLOS Genet., 19, e1010471 (2023). https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1010471
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==16:15-16:45  マウス初期胚発生における核構造の初期化==
 
==16:15-16:45  マウス初期胚発生における核構造の初期化==
 
*宮本 圭 (近畿大学生物理工学部)
 
*宮本 圭 (近畿大学生物理工学部)

Revision as of 12:33, 7 December 2023

セッション2「生命の始まりを定量する」

1/6 15:45-17:15
Chair: 未定

15:45-16:15 生命の起源を追体験する

  • 水内 良 (早稲田大学)
  • 要旨:原始生命は約40億年前にRNAなどの単純な分子の自己複製体として誕生した後、進化によって徐々に複雑化してきたと考えられている。この観測不能な生命の起源過程を理解するため、私たちは様々な原始複製体の実験モデルを構築し[1–4]、実際に進化させることで、ありえた道筋を直接的に調べている。本講演では特に、少数のRNAとタンパク質を組み合わせて構築したRNA複製システムの進化に関する研究[3–5]を中心に、最新の成果を紹介したい。本システムは複製酵素をコードしたRNAゲノムと無細胞翻訳系で構成され、RNAが複製酵素の翻訳を介して自己複製するだけの原始的なシステムである。本システムを細胞を模した油中水滴に封入し、一連の実験サイクル (培養、希釈、栄養供給) を繰り返すと、RNAが複製し続け、突然変異が生じて自発的に進化する。近年、RNA複製システムを長期的に (約600世代) 進化させたところ、最初は1種類の複製体であったRNAは5種類の異なる性質をもつRNAに分化し、それらが互いに複製し合うネットワークへと複雑化することを見出した[3]。また生命の誕生には様々な機能の出現が必要であり、全く新しい機能が生まれる過程は未だ不明であるが、人工的に新機能を付与することはできている。例えば複製を担うRNAの他に代謝を担うRNAを導入して進化させたところ、それらの協力関係が強化された[4]。さらに近年、この進化を継続したところ、2種類のRNAが複製も代謝も可能な一本の長いRNAへと繋がり、より複雑なシステムへと進化した[5]。本講演ではこのように実験室で生命の起源にありえた過程を追体験する試みについて議論したい。

16:15-16:45 マウス初期胚発生における核構造の初期化

  • 宮本 圭 (近畿大学生物理工学部)
  • 要旨:精子と卵子が受精することで形成される受精卵は、全ての細胞へと分化できる分化全能性を獲得する。この全能性獲得の過程で、生殖細胞核は胚性の状態へと初期化され、胚性の遺伝子発現プログラムが開始する。初期化は主にクロマチン状態の変化に注目して解析が進められてきたが、近年、クロマチンを格納する核自体が初期化に伴い動的な構造変化を遂げることが明らかになってきた。核の構造や機械的性質は、核内に存在する非クロマチンタンパク質である「核骨格タンパク質」によって制御される。核骨格タンパク質としては、核膜の裏打ちタンパク質であるラミンや、核内に存在するアクチンタンパク質(核アクチン)が知られている(Okuno et al., Cell Rep, 2020)。我々の共同研究グループは、初期胚核の物性解析を通じて、マウス2細胞期では他のステージに見られないほど大幅に核が変形し、柔らかく可塑的な核が作り上げられていることを発見した(Tanaka et al., bioRxiv, 2023)。この特殊な胚核の物性はラミンの発現変動によって引き起こされることがわかった。さらに、ラミンの発現変動を阻害することによって、胚性遺伝子の活性化やその後の胚発生に顕著な異常が生じた。このように、核物性や核骨格タンパク質の定量解析を通じて、初期胚発生を制御する新たなメカニズムがわかってきた。本発表では、核骨格タンパク質を介した核構造の変動メカニズムを説明し、クロマチンや遺伝子発現の変化との関係性についても議論する。
  • 参考文献

16:45-17:15 1細胞全ゲノムDNA複製解析が見出したマウス初期胚のDNA複製制御様式の変化

  • 平谷 伊智朗 (理化学研究所)
  • 要旨:哺乳類のゲノムDNA複製はメガベース(Mb)単位の複製ドメインレベルで制御されている。哺乳類の体細胞では、S期前半複製ドメインはユークロマチンであるAコンパートメントと、S期後半複製ドメインはヘテロクロマチンであるBコンパートメントとよい一致を示す。ゆえに、複製タイミング制御を理解することは、複製制御のみならず、Hi-C(high-throughput chromosome conformation capture)解析によって見出されるA/Bコンパートメント構造をはじめとするゲノム三次元構造制御の理解にもつながると考えられる。今回、我々は、胚発生過程におけるゲノムDNA複製制御様式を調べるため、着床前マウス初期胚を用いて1細胞全ゲノムDNA複製(scRepli-seq)解析を行った。その結果、1、2細胞期胚のゲノムDNA複製が体細胞とは全く異なる形で進行することを見出した。この時期にはMb単位の複製タイミングドメインは存在せず、複製フォークは極端に遅く、S期の経過と共にゲノム全域にわたってコピー数が徐々にかつ均一に倍化していく様子が観察されたのである。この状況は4細胞期に突如切り替わり、S期前半およびS期後半複製ドメインが現れて体細胞型の複製タイミング制御が開始し、これと連動して核内空間においてS期前半および後半複製領域が区画化(=A/Bコンパートメントが形成)された。しかし、予想に反し、4細胞期胚の複製フォーク速度は依然として体細胞や8細胞期に比べてはるかに遅いままであり、フォーク速度制御は複製タイミング制御の急激な出現と連動していなかった。つまり、受精後の胚発生に伴う初期胚型から体細胞型への複製制御の切り替わりの際には、Mbスケールの複製タイミング制御と個々のDNA複製開始複合体制御の間で一時的に協調性が失われていることが明らかになった。さらに、4細胞期の分裂期には未複製ゲノム領域に起因すると思われる染色体分配異常が高頻度で観察された。以上の結果から、胚性ゲノム活性化の時期には様々な階層でゲノムに大きな変化が生じるが、これらの変化は必ずしも協調的に進行している訳ではなく、マウス初期胚では階層間の協調性の一時的な低下がゲノム不安定化を引き起こしていることが示唆された。


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