Difference between revisions of "2021 summer talk"

From Japanese society for quantitative biology
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====8/7(土) 15:00-16:00 細胞ラマンスペクトル-マルチオミクス対応の背景にある低次元構造==
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==8/7(土) 15:00-16:00 細胞ラマンスペクトル-マルチオミクス対応の背景にある低次元構造==
 
*若本 祐一(東京大学)
 
*若本 祐一(東京大学)
 
*要旨:細胞の適応や分化などの現象では、環境条件や細胞自身の過去の履歴などに依存して遺伝子発現や代謝状態がグローバルに変化する。これらの現象では集団内で自然選択も生じるため、実際に適応や分化を実現する細胞内部の真の状態変化を理解するには、グローバルな分子プロファイルの変遷を1細胞系列間での差まで含めて明らかにする必要がある。しかし通常のオミクス解析では、計測対象分子を細胞から抽出する必要があるため、1細胞レベルのダイナミクスを直接追うことはできない。この問題に対し我々は、細胞から非破壊、非標識で取得できるラマンスペクトルの変化からオミクス動態の変動を捉える「ライブセルオミクス技術」の構築を進めている。これまでの研究で、細胞ラマンスペクトルとトランスクリプトームの間に統計的な対応があり、この対応を利用してラマンスペクトルからトランスクリプトームを推定できることを明らかにしている[1,2]。今回の講演では、大腸菌を対象として、細胞ラマンスペクトルから、トランスクリプトームだけでなく、絶対定量プロテオーム[3]も推定できることを紹介する。さらに、ラマン-オミクス対応の背景構造の解析から見出された、量比を保ちながら発現量が変化する多数のタンパク質群(ホメオスタティック・コア)、およびプロテオームデータと細胞ラマンスペクトルの低次元構造の類似性についても議論したい。
 
*要旨:細胞の適応や分化などの現象では、環境条件や細胞自身の過去の履歴などに依存して遺伝子発現や代謝状態がグローバルに変化する。これらの現象では集団内で自然選択も生じるため、実際に適応や分化を実現する細胞内部の真の状態変化を理解するには、グローバルな分子プロファイルの変遷を1細胞系列間での差まで含めて明らかにする必要がある。しかし通常のオミクス解析では、計測対象分子を細胞から抽出する必要があるため、1細胞レベルのダイナミクスを直接追うことはできない。この問題に対し我々は、細胞から非破壊、非標識で取得できるラマンスペクトルの変化からオミクス動態の変動を捉える「ライブセルオミクス技術」の構築を進めている。これまでの研究で、細胞ラマンスペクトルとトランスクリプトームの間に統計的な対応があり、この対応を利用してラマンスペクトルからトランスクリプトームを推定できることを明らかにしている[1,2]。今回の講演では、大腸菌を対象として、細胞ラマンスペクトルから、トランスクリプトームだけでなく、絶対定量プロテオーム[3]も推定できることを紹介する。さらに、ラマン-オミクス対応の背景構造の解析から見出された、量比を保ちながら発現量が変化する多数のタンパク質群(ホメオスタティック・コア)、およびプロテオームデータと細胞ラマンスペクトルの低次元構造の類似性についても議論したい。

Revision as of 07:44, 16 July 2021

8/7(土) 15:00-16:00 細胞ラマンスペクトル-マルチオミクス対応の背景にある低次元構造

  • 若本 祐一(東京大学)
  • 要旨:細胞の適応や分化などの現象では、環境条件や細胞自身の過去の履歴などに依存して遺伝子発現や代謝状態がグローバルに変化する。これらの現象では集団内で自然選択も生じるため、実際に適応や分化を実現する細胞内部の真の状態変化を理解するには、グローバルな分子プロファイルの変遷を1細胞系列間での差まで含めて明らかにする必要がある。しかし通常のオミクス解析では、計測対象分子を細胞から抽出する必要があるため、1細胞レベルのダイナミクスを直接追うことはできない。この問題に対し我々は、細胞から非破壊、非標識で取得できるラマンスペクトルの変化からオミクス動態の変動を捉える「ライブセルオミクス技術」の構築を進めている。これまでの研究で、細胞ラマンスペクトルとトランスクリプトームの間に統計的な対応があり、この対応を利用してラマンスペクトルからトランスクリプトームを推定できることを明らかにしている[1,2]。今回の講演では、大腸菌を対象として、細胞ラマンスペクトルから、トランスクリプトームだけでなく、絶対定量プロテオーム[3]も推定できることを紹介する。さらに、ラマン-オミクス対応の背景構造の解析から見出された、量比を保ちながら発現量が変化する多数のタンパク質群(ホメオスタティック・コア)、およびプロテオームデータと細胞ラマンスペクトルの低次元構造の類似性についても議論したい。
  • 参考文献
    • [1] Kobayashi-Kirschvink, K. J. et al. Cell Systems 7(1): 104-117.E4 (2018).
    • [2] 小林鉱石, 亀井健一郎, 中岡秀憲, 若本祐一.生物物理 60(2): 108-110 (2020).
    • [3] Schmidt, A. et al. Nat Biotechnol 34(1): 104-110 (2016).

8/9(月) 10:00-11:00 初期胚発生における計時機構の定量生物学

  • 新土 優樹(Dartmouth College)
  • 要旨:初期発生現象における時間構造の理解は、発生・細胞生物学における古典的な問題の1つです。発生が正しく進むためには、発生過程において重要な細胞機能の発現が適切なタイミングで起こる必要があります。我々は、ショウジョウバエの初期胚におけるMZT(Maternal-to-Zygotic Transition; 母性胚性転移)を材料に、初期胚発生における計時機構の原理を理解することを目指しています。今回の発表では、ヒストンH3の濃度という定量的な情報が、初期胚発生の進行具合を示すセンサーとして機能することを見出した最近の研究について紹介します(1–3)。特に、クロマチン状態の変化と細胞周期構造のリモデリングに着目し、これらをヒストンH3の濃度変化を介して発生の進行とカップルさせるメカニズムについて議論します。
  • 参考文献
    • (1) Shindo and Amodeo, Current Biology, 29, 359–366 (2019).
    • (2) Shindo and Amodeo, Current Biology, 31, 2633–2642 (2021).
    • (3) Shindo and Amodeo, Biophysical Journal (2021).

8/10(火) 15:00-16:00 マルチオミクス解析による毛包幹細胞の起源と毛包発生モデルの解明

  • 森田 梨津子(理化学研究所)
  • 要旨:器官が正常に機能するためには、発生過程において適切な場所に幹細胞や機能細胞が配置される必要がある。器官の形態形成過程における長期的な細胞挙動と状態変化の定量は、器官構築と個々の細胞運命決定の制御機構に対する理解を前進させる上で重要な情報となる。これまで細胞の系譜や挙動の解析は、遺伝学的細胞系譜解析が主流であったが、特異的に発現する分子マーカーが特定されていない場合は使用することができない。たとえば毛包幹細胞は成体毛包の恒常性や再生を担う中心的存在でありながら、その発生過程は、特異的分子マーカーを含め十分に明らかになっていなかった。そこで本研究では、毛包発生における幹細胞の誘導過程を追跡するために、特定の分子マーカーに依存しないデータ駆動型の解析手法を選択した。長期3Dライブイメージングと単一細胞トランスクリプトミクスを組み合わせたマルチオミクス解析から、マウス毛包上皮全体における発生過程の細胞系譜とトランスクリプトームの変化を捉えることで、定説とは異なる毛包幹細胞の起源を明らかにするとともに、器官内のコンパートメント形成と幹細胞誘導を支える新しい毛包発生の様式「テレスコープモデル」を見出した。本発表では、これまで得られた成果から今後の展望までを紹介したい。
  • 参考文献
    • Morita, R., et al., Tracing the origin of hair follicle stem cells, Nature 594, 547-552 (2021)

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