Fukui caravan session4

From Japanese society for quantitative biology
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'’’セッション4 「菌類のやり取り」

11/23 14:35-16:50

14:35-14:50 菌類のコミュニケーション

  • 畠山 哲央(東京科学大学)

14:50-15:30 糖枯渇時の酵母の生存戦略: Latecomer killing

  • 小田 有沙(東京大学)
  • 要旨:微生物はその生育環境に応じて、他の微生物と共生したり、あるいは競合したりするが、その際、生物間、細胞間でコミュニケーションを行う。特に排他的なコミュニケー ションにおいて、増殖を害するような物質を分泌をすることは、自身やその系譜のフィットネスに影響を及ぼしかねない。私たちは、酵母が、グルコース枯渇時に増殖阻害物質を分泌し、同種を含む周囲の微生物の増殖を抑制する現象を見出した(Oda et al. PLOS Biol. 2022)。さらに、この酵母の培養上清成分の質量分析により、酵母が分泌する増殖阻害物質を同定した。自らの増殖をも抑制する物質の分泌は、生存には一見不利に見える。だが、実際には飢餓環境へ適応し、増殖阻害物質を分泌した酵母は、自身の分泌した増殖阻害物質へも適応しており、高濃度の増殖阻害物質であっても耐性も示した。一方で、飢餓に適応していない酵母は、この増殖阻害物質にさらされるとその多くが死ぬことがわかった。このような毒の分泌と適応を組み合わせた競合的なコミュニケーション現象を「Latecomer killing (新参者殺し)」と名づけた。この現象を紐解くと、単なる栄養源枯渇への適応だけでなく、自らの分泌した毒のストレスへの適応も加わった複層的なストレス応答の様子が伺えた。

15:30-16:10 酵母はどうやって“相手を見つける”のか—フェロモン認識の進化

  • 清家 泰介(九州工業大学)
  • 要旨:酵母は性フェロモンという“鍵”と受容体という“鍵穴”の相性で相手を見つける。私たちの先行研究では、この鍵と鍵穴を少し作り替えるだけで、元の集団とは交配しない“別のペア”(人工的な生殖隔離群)を作れること [1]、さらに野生株の大規模解析から、 二種類あるフェロモンのうち片方は認識が緩く、もう片方は厳密という非対称性を明らかにした [2]。今回はその土台の上で、同じ“鍵”でも環境によって“開く相手”が変わることを示す [3]。具体的には、フェロモンの1アミノ酸置換体153種を用いた競合実験で、通常は不利な置換がpHなどの条件下では一転して有利になる「環境スイッチ」として働くことを見いだした。試験管内での合成ペプチド試験でも、この切り替えを再現した。さらに近縁種との比較から、単独ではフェロモン活性を低下させる置換でも、別の“寛容化変異”が埋め合わせとなり、適応度の谷を回避して多様化へ進む経路が見えてきた。短いペプチドでも、環境依存性と相補的変異の組み合わせで機能を拡げ、種分化を促進し得る可能性がある。酵母はどうやって“相手を見つける”のか。鍵と鍵穴の進化から、その答えに迫る。
  • 参考文献
    • [1] Seike et al., PNAS, 112: 4405-4410 (2015)
    • [2] Seike et al., PLoS Biol, 17: e3000101 (2019)
    • [3] Seike et al., bioRxiv, doi.org/10.1101/2025.08.28.672862 (2025)

16:10-16:50 菌類の菌糸体に見られる知的な行動

  • 深澤 遊(東北大学)
  • 要旨:菌類の菌糸は森林の土壌中にネットワークを張り巡らせており、有機物の分解や水分・養分の輸送により森林生態系の物質循環に重要な役割を果たしている。木材を分解する木材腐朽菌の菌糸を使った培養実験により、記憶・学習・決断といった、知的な行動が確認されている。また、エサとなる木片までの距離やサイズ、自身の栄養状態によって行動を柔軟に変化させることから、エサから得られるエネルギーとエサの探索にかかる コストの兼ね合いによって最適な行動を選択していると考えられる。 菌類の菌糸は切断されてもそれぞれの破片が生存・成長することが可能なので、積極的に分裂してクローンを増やすという生存戦略も考えられる。しかし、菌糸のネットワークは数メートル規模に広がることもあり、なるべくつながっていようとしているように見える。この理由も、菌糸を通した水分や養分などの輸送を確保するためかもしれない。人為的に離した菌糸とつながった菌糸を使った培養実験により、つながった菌糸のほうがエサの木片を効率よく分解できることがわかった。菌糸の接続は、水分や養分だけでなく、情報の伝達にも重要かもしれない。講演では、培養菌糸や野外のキノコにおける電気的シグナル伝達の可能性についても紹介する。
  • 参考文献
    • [1] Fukasawa Y et al. (2020) ISME J 14:380–388.
    • [2] Fukasawa Y & Kaga K (2021) J Fungi 7:654.
    • [3] Fukasawa Y & Ishii (2023) Front Cell Dev Biol 11:1244673.
    • [4] 深澤遊 (2023) 枯木ワンダーランド. 築地書館.
    • [5] Fukasawa Y et al. (2023) Fung Ecol 63:101229.
    • [6] Fukasawa Y et al. (2024) Sci Rep 14:15601.
    • [7] Fukasawa Y et al. (2024) Fung Ecol 72:101387.
    • [8] Fukasawa Y et al. (2024) Fung Ecol 71:101362.
    • [9] 深澤遊 (2024) 日本生態学会誌 74:215–227.
    • [10] 深澤遊 (2024) 日本生態学会誌 74:193–194.
    • [11] Fukasawa Y & Kadish KA (2025) Fung Ecol 76:101437.
    • [12] 深澤遊 (2025) 生物物理 65:210–212.

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