Fukui caravan session3

From Japanese society for quantitative biology
Revision as of 13:19, 20 November 2025 by Hiroaki takagi (talk | contribs) (Created page with "='’’セッション3 「細胞の中の物流」''' = 11/23 10:00-12:15 <br> ==10:00-10:15 細胞内の輸送現象== *梶田 真司(福井大学) ==10:15-10:55 軸索内における空間的秩序の形成機構== *小西 慶幸(福井大学) *要旨:脳内の神経細胞は、1本の軸索から平均して数千もの標的細胞に信号を出力し、複雑な回路を形成している。軸索の分岐形状やシナプスの空間分布は出力...")
(diff) ← Older revision | Latest revision (diff) | Newer revision → (diff)

'’’セッション3 「細胞の中の物流」

11/23 10:00-12:15

10:00-10:15 細胞内の輸送現象

  • 梶田 真司(福井大学)

10:15-10:55 軸索内における空間的秩序の形成機構

  • 小西 慶幸(福井大学)
  • 要旨:脳内の神経細胞は、1本の軸索から平均して数千もの標的細胞に信号を出力し、複雑な回路を形成している。軸索の分岐形状やシナプスの空間分布は出力先を決定する上で極めて重要であるが、これらの構造的特徴を細胞自律的に制御する仕組みについては、十分な理解に至っていない。我々は軸索の形態調節において空間依存性が創出される機構の理解を目指した研究を行ってきた。本発表では、微小管および軸索輸送の枝間差に起因する枝ごとの伸長速の違いと、枝の長さに依存して生じる微小管ターンオーバーの差が相互にフィードバックすることで、枝間の構造的非対称性が自律的に維持されるモデルを紹介する[1][2]。これにより、外部シグナルに依存せず、内部動態のみから分岐の多様性や安定性が説明できることを示す。さらに、軸索上でミトコンドリアがほぼ等間隔に整列する現象に焦点を当て、その形成機構を解析した結果を報告し[3] [4]、軸索形態の維持やプレシナプス形成における役割について議論する。
  • 参考文献
    • [1] Seno et al., Kinesin-1 sorting in axons controls differential retraction of arbor terminals. J Cell Sci 2016; jcs.183806. DOI: 10.1242/jcs.183806
    • [2] Imanaka, et al. A model for generating differences in microtubules between axonal branches depending on the distance from terminals. Brain Res 2023; 1799: 148166. DOI: 10.1016/j.brainres.2022.148166
    • [3] Matsumoto et al. Intermitochondrial signaling regulates the uniform distribution of stationary mitochondria in axons. Mol Cell Neurosci 2022; 119: 103704. DOI: 10.1016/j.mcn.2022.103704
    • [4] Kajita et al. Active thermodynamic force driven mitochondrial alignment. Phys Rev Res 2024: 6.2: L022024. DOI: 10.1103/PhysRevResearch.6.L022024

10:55-11:35 細胞内混雑環境と軸索輸送速度のパラドックス

  • 岡田 康志(東京大学)
  • 要旨:軸索輸送を担うモーター分子としてキネシンが発見されて以来40年にわたり、軸索輸送に関する多くの知見が積み重ねられてきた。定性的な観点からは、多くの問題が解決されたようにみえる。しかし、キネシン発見論文で既に報告されていた定量的な矛盾は未解決のままである。精製キネシンのin vitro運動速度は、軸索内での小胞輸送速度の1/3以下に過ぎない。混雑し粘性の高い筈の細胞内で、むしろなぜ速度が上がるのか。このパラドックスをbiological dark matterと呼ぶ論者もおり(Ross 2016)、40年来の未解決問題である。また、そもそも、この速度はどのような生理的意義を持つのであろうか。高々 1mm以下の長さの軸索しか持たない線虫と、神経軸索が4-5 mに達するキリンとで、キネシンの速度や軸索輸送の速度は同じでよいのだろうか? 我々はこれら2つの定量的パラドックスに取り組んでいる。
  • 参考文献
    • [1] Ross JL. The Dark Matter of Biology. Biophys J. 2016;111(5):909-16. DOI: 10.1016/j.bpj.2016.07.037

11:35-12:15 アクティブな熱力学的力によるミトコンドリアの整列

  • 梶田 真司(福井大学)
  • 要旨:真核生物の主要なエネルギー産生を担うミトコンドリアは、神経軸索において等間隔に整列することが知られている[1]。この空間配置は、細長い軸索構造全体でATP濃度を均一に保つ機能を果たすと考えられている。しかし、ミトコンドリア間に直接的な反発相互作用は存在せず、走化性を実現する複雑なシグナル伝達系も確認されていないことから、この等間隔分布の形成メカニズムは不明であった。我々は最近、ATP産生とATP依存的なミトコンドリアの確率的移動という2つの要素のみから、この空間パターンが自発的に形成されることを理論的に示し、このメカニズムを「アクティブな熱力学的力」と名付けた [2]。このメカニズムは、分子モーターによるATP加水分解を伴うミトコンドリアの輸送という非平衡過程が、熱的揺らぎに似た効果を生み出し、ミトコンドリア間に実効的な反発力を生み出すことで、安定した秩序配置が実現される。この新しいパターン形成メカニズム「アクティブな熱力学的力」は、細胞内の効率的な物質分配を実現する普遍的な原理である可能性があり、本発表ではこの自発的に生じる空間秩序と生命機能の関係や、その進化的意義についても議論したい。
  • 参考文献
    • [1] Matsumoto, N.; Hori, I.; Kajita, M. K.; Murase, T.; Nakamura, W.; Tsuji, T.; Miyake, S.; Inatani, M.; Konishi, Y. Intermitochondrial Signaling Regulates the Uniform Distribution of Stationary Mitochondria in Axons. Mol. Cell. Neurosci. 2022, 119, 103704. https://doi.org/10.1016/j.mcn.2022.103704
    • [2] Kajita, M. K.; Konishi, Y.; Hatakeyama, T. S. Active Thermodynamic Force Driven Mitochondrial Alignment. Phys. Rev. Research 2024, 6 (2), L022024. https://doi.org/10.1103/PhysRevResearch.6.L022024

定量生物学の会 福井キャラバン2025メインページへもどる