年会2010セッション4

From Japanese society for quantitative biology
Revision as of 12:36, 16 December 2009 by Ksugimura (talk | contribs) (→‎概要)

第二回年会 (セッション4)時空間ダイナミクスの定量生物学

日時

20010/01/11 13:30-15:30 セッション4

Chair

  • 小林徹也(東大)

概要

植物の体内時計に見られる時空間ダイナミクスとその制御

  • 福田弘和1,2 1大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科、2JSTさきがけ 

21世紀は植物利用が広まると予想されている。農作物としての植物はこれまでも重要視されてきたが、今後は環境保全のための緑化植物、医薬用原材料となる有用遺伝子導入植物、セラピー用植物、環境浄化植物、代替エネルギーとしてのバイオマス、さらには植物システムの工学的模倣(プラント・ミメティックス)など、多くの植物利用が期待されている。これらにおいて植物システムの数理科学的解明、特に「植物システムの動作原理の数理科学的解明」は、植物生産技術の発展に貢献し、工学的応用に対する基盤となり重要である。また、植物は地球上で最も繁栄している種の一つであり、山岳、浜辺、砂漠、熱帯雨林など、環境条件が大きく異なっていても植物システムの基本構造は変わらない。この構造普遍性は、植物システムが多様な環境適応機能を発するシステムとして理想的であることを意味している。理想的なシステムである植物システムは、独自の創発原理に基づいた自己組織化現象を利用しながら、情報を処理し、環境適応していると思われる。その創発原理を見出すことは、生物の基本原理の解明に貢献すると考えられる。しかしながら、植物特有の自己組織化現象やそれを司る原理(創発原理)を探求する研究はほとんどなかった。

植物システムは、全能的で自律的な細胞が組織、器官、個体を形作った「階層性のある自律分散システム」である。しかも、器官によってシステムの形態が異なっており、葉はおおよそ2次元、根はおおよそ1次元のシステムとなっている。さらに、維管束系と呼ばれる導管や師管を通じて細胞同士は長距離で相互作用しており、その長距離ネットワークがシステムをさらに複雑化、高度化している。例えば植物の体内時計に注目すると、ほぼ全ての細胞は自律振動子として振る舞い、維管束によって複雑に繋がった「階層性のある複雑な結合振動子系」になっていることが分かる。植物システムのこのような構造の中に、高度な創発原理が内蔵されており、特有の自己組織化現象が発生していると考えられる。

本発表では、まず体内時計が生み出す時空間ダイナミクスの観察実験とモデル構築について説明する。葉では、細胞集団の同期現象に由来する位相波や、複数のスパイラル波の同時発生なども観察される。また、位相波は葉脈の部分で遅れて伝播する傾向があり、植物における時空間ダイナミクスの特徴となっている。ここでは位相遅れを再現する数理モデルを紹介する。

また、概日リズムを精密に制御する技術は、植物生産において有用である。位相応答曲線や振幅応答曲線、周期的な明暗サイクルへの引き込み現象などに関する研究から、概日リズムを正確に制御するための知見が得られる。これらの知見を数理的に体系化し概日リズム制御工学を構築していくことは、より高度な制御技術を創出する上で重要である。そこで植物の概日リズム制御工学の構築を目指し、微弱パルス刺激に対する位相応答や振幅応答、周期的な微弱パルス列への引き込み現象を詳細に調べ、それらを統一的に理解することを試みた。本発表では、これまで得られた成果と今後の展望について紹介する。

機械刺激による表皮細胞間カルシウム伝播の数理モデル

  • 長山雅晴(金沢大学理工研究域数物科学系)

培養表皮細胞に対して機械的に刺激を与えた場合,表皮細胞間をカルシウムイオンが伝播する現象が知られている.この現象を再現するための数理モデルを構成し,実験と比較することにより,表皮細胞におけるカルシウムイオン伝播の機構を数理的に理解することを試みる.また,機械刺激が強すぎた場合,機械刺激をうけた細胞が死ぬ場合がある.このとき,死んだ細胞の周囲の表皮細胞は高濃度カルシウムの状態を 維持することが実験でわかった.この機構も数理モデルから理解することを試みる.この研究は,生体表皮のおいて正常な角層直下では表皮細胞にカルシウムイオン の局在化がみらる実験結果を数理モデルから理解するために行った研究の途中成果である.時間があれば,生体表皮におけるカルシウムイオンの局在化についても紹介したい.

第二回年会のページに戻る