年会2009定量生物学の要素技術

From Japanese society for quantitative biology

第一回年会 (セッション4)定量生物学の要素技術

日時

2008/01/12 10:00-12:00 セッション4 (暫定)

企画担当者

  • 日比野佳代(理研)

概要

「暫定」
生命現象を定量的に明らかにするためには、現象を構成する要素の種類、濃度(数)、分布及び運動、形態(状態)、また、要素間の反応等に注目し、これらが生命現象の過程で、どの様に時空間的に発展してゆくかを直接測ることが重要です。このセッションでは、定量的に測るために、いかなる努力がなされ、現在どの様なことまで可能になりつつあるかを、第一線で活躍する若手研究者に紹介してもらいます。

プログラム

  • 今村 博臣 (大阪大学産業科学研究所)
    • 細胞内のATP動態を可視化するためのプローブ開発と計測(仮題)

Lohmannによって1929年に発見されて以降,ATPは生体内の高エネルギー物質として注目され,盛んに研究されてきた.ATPの加水分解エネルギーを利用する事で,生物は通常進行しないような化学反応をいとも容易く達成している.現在では,ATPは生体のエネルギー通貨として,筋収縮などはもとより,細胞運動,細胞内輸送,膜を介した物質輸送,生体高分子の合成,代謝反応等々,多種多様な場面で用いられていることが明らかになっている.細胞内ATP濃度は代謝反応速度や細胞の活動に直接影響を与えており,ATPの空間・時間分布そして制御機構を理解する事は細胞の代謝全体を考える上でも重要である.またATPは時として細胞の内外で情報伝達分子としても働いており,近年注目を集めている.
それにもかかわらず,生体内ATPの濃度やその時間的・空間的な分布・変動については理解が進んでいるとは言いがたい.それは従来の手法では,多数の細胞や組織を一旦破壊した後の平均化されたATPを測定していたため,個々の生きた細胞の持つ情報が失われてしまっていたからである.我々はATP合成酵素のεサブユニットと蛍光タンパク質を組み合わせ,FRETタイプの蛍光ATPプローブ(ATeam)を開発した.ATeamはεサブユニットがATPの結合によって大きく構造変化する性質を利用している.また,様々な改変を加える事で低濃度から高濃度まで様々なATP濃度をカバーする一連の改変型プローブも作製した.蛍光ATPプローブを発現させた細胞をイメージングすることによって,ひとつひとつの生きた細胞中のATP濃度変化をリアルタイムに測定することが可能となった.本発表では,蛍光ATPプローブの開発・改良戦略とともにATPイメージングによって得られた知見についても報告する予定である.

  • 上野 匡 (東京大学大学院)
    • 細胞内生理活性分子を可視化する有機小分子プローブの開発

我々の生体内では,様々な分子が組織化することで高度な生体機能を制御し,これをダイナミックに変化させることで外部刺激に応答し,また順応している.動的に変動するタンパク質の局在や活性の変化,生理活性分子の発生や放出といった,生体内のイベントをリアルタイムに解析することは,生命現象を理解する上で重要な課題の一つである.しかしながら,我々の体の中に存在する生体分子のほとんどは無色であることから,これらの観察したいイベントが,いつ,どこで,また,どのように起こっているのかといったことを,直接目で観察することができない.我々の生命現象を垣間見るには,やはり,生理的条件下でこれらをリアルタイムに解析することが望ましい.感度や時空間的な解像度が優れ,生理的な条件下においてさまざまな標的分子の挙動を観察できる蛍光イメージング法を基本とした解析法は,非常に強力な手法であり,現代の生命科学の発展の礎となっている.2008 年のノーベル化学賞が,GFP の発見・発展に尽力した研究者に贈られたことからも,蛍光がいかに近年の生命科学を切り開いているかが伺えよう.本学会では,生命現象をいかに観察し,いかに情報を引き出し,この情報をいかに処理するのかについて,多くの死力を尽くした議論が交わされると思われるが,本発表では我々の研究を通じ,「普段使っている蛍光試薬は,どうやって開発されているの? 」という,普段,気にとまる機会の少ない,素朴な疑問にスポットを当てて,概観してみたい.
私の所属する長野研究室では,有機化学と物理現象を操り,小さな有機蛍光分子を機能化することで,さまざまな生理活性分子との相互作用や反応,酵素活性を可視化する蛍光プローブを開発している.私自身も,細胞内で発生し,老化や病態の形成,細胞内のシグナル伝達に関与するといわれている活性酸素種のうちの特定の分子種だけを,高選択的に検出できる蛍光プローブを開発することに成功しているが,これは,光合成の基本をなす“光誘起電子移動”という物理現象を操ることで達成されている.このように書くと,蛍光プローブの化学は,とても堅く,近づき難い分野に感じられるかもしれないが,本学会では,これらをかみ砕いて解説し,どのように分子が生み出されていくのかを,順を追ってわかりやすく解説してみよう.私の発表を通じ,有機小分子が切り開く生命科学の世界に興味を持っていただければ,幸いである.

  • 木村 啓志 (東京大学生産技術研究所)
    • MEMS技術を応用した細胞機能測定
要旨:近年,MEMS技術を用いて製作されるマイクロ流体デバイスをバイオ分野へ応用する研究が盛んに行われている.マイクロ流体デバイスは数十ミクロンから数百ミクロンの流路構造を有し,マイクロ空間特有の物理現象を利用することで,高速・高効率な合成・分離などの微量液体操作が可能である.これらの操作を応用して電気泳動分離や遺伝子増幅反応などがマイクロ流体デバイス内で実現されてきた.他方,細胞を用いた実験系への応用として,流路構造による体内環境の毛細血管様の再現や,足場構造を設けることで細胞組織の三次元化を目指す試みも進められてきた.これらの試みは,従来のディッシュやフラスコを用いた培養系に比べ,生体内に近い環境を細胞に提供することを目的としており,確かにマイクロ流体デバイス内部で培養された細胞組織は従来法による培養に比べて細胞活性の向上が認められている.マイクロ流体デバイスには流路構造の他にも送液系や計測系といった機能要素を集積化することが可能であり,次世代の細胞機能解析のためのプラットフォームとして期待されている.本講演では,細胞培養や解析のためのマイクロ流体デバイスの概説をした後に,我々が“Body on-a-chip”をコンセプトに研究開発を進めている臓器細胞集積型のin vitroモデルデバイスを紹介する.