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制約付き空間場の定量生物学13:30 - 15:30

多細胞動態・形態の定量による恒常的な管径維持システムの解明

  • 平島 剛志(ウイルス・再世医科学研究所)
  • 要旨:生物の発生・成長過程において、多細胞組織の形態(かたちや大きさ)は、組織を構成する細胞の協調的な振る舞いにより制御されている。多細胞組織の形態制御を支える仕組みのひとつに、細胞が力を受容し応答する機能 −細胞力覚(言葉の定義は文献1による)− に基づくものがあり、その仕組みを支える関与分子や細胞の機能同定は、これまでに精力的に進められている[2]。しかし、受容した力に対する細胞応答がどのように多細胞組織の形態制御に寄与するのかについては、未だ不明な点が多い。

  われわれは、生体組織の基本構造である管の形態形成過程に着目し、蛍光イメージングを基盤とした定量と数理モデル解析を組み合わせて、管の形態制御に関わる細胞力覚機構の解明を目指している。マウス胎仔の精巣上体において観察される、細胞増殖する単層上皮管の径長が一定に保たれる現象を具体的な研究題材とし[3]、3次元管組織における細胞のかたちや動きを蛍光イメージングし、得られた画像を定量解析した。これらの解析により、管径の増大に寄与する円周方向に沿った細胞分裂と管径の縮小に寄与する細胞の配置換えが均衡していることが明らかとなり、管径を恒常的に維持するための組織局所的な細胞群の振る舞いを見出した[4]。さらに、多細胞動態を表現する力学シミュレーション解析[5]や異方的な圧力負荷に対する細胞応答の測定により、管組織内の細胞は、たとえば細胞分裂のような組織内で発生する力に応答するようにミオシン活性を亢進させることがわかった。本講演では、これらの実験と数理シミュレーションにより得られた結果を統合的に議論し、恒常的な管径維持のために発揮する多細胞動態システムを提案する。

  • 参考文献

[1] 曽我部正博/編, 「メカノバイオロジー 細胞が力を感じ応答する仕組み」, 化学同人, 2015

[2]Low, B.C., et al., FEBS Lett., 2014

[3]Hirashima, T., Cell Rep., 2014

[4]平島, 「上皮管組織の異方的な成長を支える協調的な多細胞動態と力学」,生体の科学, 2016

[5]Fletcher, A.G., et al., Biophys. J., 2014


細胞サイズ閉鎖空間でのアクチン細胞骨格のin vitro再構成

  • 宮崎 牧人(早稲田大学先進理工学部物理学科)
  • 要旨: 動物細胞はストレスファイバー、コルテックス、ラメリポディア、収縮環など様々な種類のアクチン細胞骨格を膜直下に形成し、細胞の形態維持や形態変化のみならず、細胞運動や分裂など多種多様な機能を制御している。電子顕微鏡によって細胞骨格の存在が明らかになってから約半世紀が経ち、ミオシン、アクチニン、Arp2/3複合体などの細胞骨格を構成するタンパク質と、RhoやROCKなどの細胞骨格の形成を制御するシグナル因子はかなり明らかになりつつある。その一方で、細胞骨格はどのような仕組みで自己組織的に形成されるのか、どのような仕組みで細胞の変形、運動や分裂を制御しているのか、それらの物理的理解は未だに不十分である。そこで我々は、細胞骨格形成と機能発現に必要と考えられる部分だけを細胞から切り取って単純化した“人工細胞”を用いて細胞機能を再構成する、というプロセスを通じて、細胞骨格の形成機構と細胞機能の制御機構の解明に挑んでいる。細胞から単離・精製したタンパク質や細胞質抽出液を、油中液滴やリポソームなどの細胞サイズのカプセルに封じ込める基盤技術を確立し(Protoc. Exch. 2015, Biophys. J. 2014)、細胞骨格タンパク質の組成・活性度などの生化学パラメーターと、閉鎖空間のサイズや形状などの物理パラメーターが自己組織化パターンと動態に及ぼす効果を定量的に調べている。その結果のひとつとして、細胞サイズの油中液滴にアクトミオシンとアクチン繊維の束化因子を封入すると、収縮環様のリング構造が自発的に形成・収縮する条件があることを発見した(Nat. Cell Biol. 2015)。本講演では、“人工細胞”を作製する基盤技術を概説したのち、我々が明らかにした収縮環形成の仕組みと最新の試み・展望を紹介する。
  • 参考文献

[1]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19672276

[2]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25028876

[3]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25799060

細胞内空間の制約による細胞核の大きさ制御機構

  • 原 裕貴(山口大学)
  • 要旨:なぜ多くの真核生物は、DNAを含むオルガネラである細胞核(以後、核とする)を細胞の中央に配置するのだろうか?この細胞生物学の基本的な疑問に対し、細胞分裂を均等に行うために核は細胞の中央に配置される、という解答がこれまでの知見を基になされてきた。しかし、分裂面の決定には、より後の細胞周期のイベントで必要な紡錘体の細胞内配置が強く関わることが想定される。そのため、核の配置に関しては、何か別の生物学的意義があることが予想された。この新たな可能性を探索するために、本研究では、核の周囲の細胞質の「局所的な」空間に人為的な制約を与え、核の形態に及ぼす影響を解析した。解析には、アフリカツメガエルの卵抽出液を用いた細胞核の無細胞再構築系と、マイクロ流体デバイスの手法を融合させることで、核周囲の細胞質空間を人為的に操作可能な新規実験系を用いた。その結果、核の周囲の細胞質がある一定の体積以下になった場合にのみ、その空間のサイズ(大きさ)に依存して核のサイズの増大速度が変化する定量的特徴が明らかになった。さらに生化学的アプローチの結果、空間的制約のもとでは、ダイニンモーターによる微小管上の膜の成分の供給量が低下することで、核のサイズの増大速度が低下することが明らかとなった [1] 。核に代表されるオルガネラのサイズは細胞の機能に強く影響を与える知見を併せて考えると [2] 、細胞内の核の配置により、物理的な制約を受けうる核周囲の局所的な細胞質空間が核のサイズを制御し、さらに細胞機能をも制御するという、細胞内の核の配置に関する新たな生物学的な意義を提案したい。
  • 参考文献

[1]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23498944

[2]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26004509

[3]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23277088