Difference between revisions of "第五回年会セッション3"

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芳賀 淑美(理研基幹研究所 ケミカルバイオロジー研究領域)<br>
 
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沖 昌也(福井大学大学院工学研究科)<br>
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[http://acbio2.acbio.u-fukui.ac.jp/biochem/oki-hp/ 沖 昌也](福井大学大学院工学研究科)<br>
 
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Revision as of 04:13, 5 October 2012

定量生物学のニューフィールド(仮)

講演者:
芳賀 淑美(理研基幹研究所 ケミカルバイオロジー研究領域)
沖 昌也(福井大学大学院工学研究科)
熊谷 雄太郎(大阪大学免疫学フロンティア研究センター)

日時

TBA

Chair

TBA

概要

糖鎖イメージング:標的糖タンパク質の可視化とその動態解析

  • 芳賀 淑美(理研基幹研究所 ケミカルバイオロジー研究領域)


 糖鎖修飾はタンパク質の主要な翻訳後修飾の1つであり、タンパク質の立体構造や安定性などの物理化学的性質や、多くの生命現象に深く関わっている。生体における糖鎖の機能を明らかにするために、これまでは糖鎖関連遺伝子を欠損させる手法や糖転移酵素の阻害剤が用いられてきた。しかし、これらの方法では細胞がもつ全てのタンパク質の糖鎖構造が変化してしまい、観察された現象が実際には何によるのか、真の原因を究明することは困難であった。一方で、近年、糖鎖関連遺伝子ノックアウトマウスの詳細な病態解析により、細胞膜上の受容体などの特定の糖タンパク質上の微細な糖鎖構造の変化と疾病との間に関連性があることが明らかになってきた。

 そこで我々は、特定のタンパク質上の特定の糖鎖構造がタンパク質の動態に及ぼす影響やその分子メカニズムを明らかにするために、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の原理を用いた糖タンパク質イメージングツールを開発した。目的のタンパク質に融合させた蛍光物質と、糖鎖に結合させた蛍光物質間でFRETを観察することで、特定の糖タンパク質における糖付加状態の差異を明らかにするものである。

 今回我々は、モデルタンパク質として選択したインスリン応答性グルコース輸送体GLUT4において、様々な糖鎖構造をもつもののうち、シアル酸という糖をもつGLUT4だけを区別して可視化することに成功した。最近、我々は糖鎖構造を変えたGLUT4や糖鎖欠損GLUT4はインスリン応答経路を通らないことを発見し、GLUT4上の糖鎖構造が正しい経路を通るための目印となっている可能性を示している。そこで、シアル酸の付加がGLUT4の細胞内動態に及ぼす影響を調べるためにライブセルイメージングを行った。本発表では、我々が今回新たに開発した糖鎖イメージング技術によって初めて明らかにすることができた、タンパク質の輸送を制御する因子としての糖鎖の役割を紹介させていただく。

参考文献
1. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22713749
2. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21757715


単一細胞追跡システムを用いた
エピジェネティックな遺伝子発現切り替わりメカニズムの解明

  • 沖 昌也(福井大学大学院工学研究科)


 ヘテロクロマチン領域は生物種を越えて染色体上の様々な場所に見られ、その内部に存在する遺伝子は一般的に発現状態が抑制されていることが知られている。ヘテロクロマチン領域はどこまでも伸長せず、境界を形成し停止する。我々は、出芽酵母が芽を出して分裂するため、親子関係を容易に追跡することが可能であるという特徴を生かし、蛍光タンパク質を用いた世代を越えた単一細胞追跡システムを確立した。その結果、出芽酵母内に存在するヘテロクロマチン領域HMR 遺伝子座、HML 遺伝子座、テロメア領域の境界近傍ではヘテロクロマチン領域が分裂を繰り返すことにより伸びたり縮んだりして揺らいでおり、近傍に存在する遺伝子がエピジェネティックに発現制御を受けていることを明らかにした。興味深いことに、この揺らぎはそれぞれの領域において一定の規則性が見られ、同一細胞内の異なる領域では同期して働いている場所と、独立して働いている場所が存在した。具体的には、同一細胞内のHMR 領域の左側とテロメア間、HML 領域の右側とテロメア間での顕著な規則性は見られなかったが、HMR 領域の右側と左側、HMR 領域と HML領域間では、明らかな規則性は見られないものの、何かしらの機能的相関が存在することを示唆する実験結果を得た。現在、揺らぎの規則性に関して統計的処理を行い、より詳細に機能的相関の有無に関して解析を行っている。また、世代を越えた揺らぎの規則性はヒストンアセチル化酵素を破壊することにより変化することが明らかとなった。例えば、ヒストンアセチル化酵素の1つであるsas2を破壊するとON から OFF、 OFF から ON への世代を超えたエピジェネティックな発現状態の切り替わりの頻度が上昇し、gcn5 を破壊すると、発現の切り替わる系列に偏りが見られるようになった。

 これらシングルセルを用いた解析結果から、エピジェネティックな遺伝子発現状態の変化は、個々の細胞において分裂を繰り返すことによりリバーシブルに変化し、その変化はランダムではなく、部位特異的に制御され、ヒストンアセチル化酵素によってある一定の規則性のもとにコントロールされている可能性を示唆した。

参考文献
1.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22362029
2.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21670546
3.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16382141
4.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16137626
5.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14966276
6.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12067651

RNA分解を通じた自然免疫応答の制御 – 定量化とモデル化

  • 熊谷 雄太郎(大阪大学免疫学フロンティア研究センター)


免疫応答のみならず、遺伝子発現制御においてRNA量を転写と分解を通じて制御することの重要さは言うまでもないことです。古くからHuR, TTP/Zfp36といったRNA結合タンパク質が炎症性サイトカインmRNAの安定性を制御しているということは知られていましたが、近年はmicroRNAによる制御を始め、IL-6 mRNAの安定性を通じて免疫応答を制御するRNaseであるregnase-1/Zc3h12aが同定されるなど、分子生物学的な理解がより進んでいます。我々はRNA-seqを用いた方法によってRNAの分解速度を網羅的に測定することを通じて、自然免疫応答におけるRNA発現のモデルを構築することを目指しています。データ処理から配列モチーフ同定の試みについてお話する予定です。また、抗ウイルス応答におけるRNA安定性制御を担う因子の同定とそのシステム解析を行なっております。その中で、I型IFN mRNAの安定性制御に関与するRNA結合タンパク質を見出しました。その役割の解析とモデリングから、RNAの分解制御がもつ役割が単なる発現量の調節にとどまらない可能性を見出しました。以上の研究について最近得られた結果をご紹介します。

参考文献
自然免疫全般の総説として
[1] Takeuchi O and Akira S. "Pattern recognition receptors and inflammation" Cell. 2010 Mar 19;140(6):805-20.
システム解析の方の話の参考として
[2] Hornung G and Barkai N. "Noise propagation and signaling sensitivity in biological networks: a role for positive feedback" PLoS Comput Biol. 2008 Jan;4(1):e8.
を挙げておきます。


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