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+ | 近年、胚性幹(ES)細胞から様々な種類の細胞を分化誘導する方法が確立されてきていますが、いずれの方法においてもES細胞は均一に分化するのではなく、個々の細胞がばらばらなタイミングで様々な方向へ分化してゆきます(1)。このES細胞の「分化の不均一性」は長年観察されていたものの、そのメカニズムはほとんど分かっていませんでした。 | ||
− | + | 私たちは、抑制型の転写因子Hes1に着目をしました。Hes1は、ES細胞集団で豊富に発現していますが、個々のES細胞を観察すると、細胞内では、主に3-5時間の周期で発現が振動していることを見いだしました(2)。Hes1は転写因子であり、その発現レベルの変動は、下流遺伝子の発現変動も引き起こしていました。Hes1の発現レベルが高いES細胞と低いES細胞を分離して分化能力を比較した結果、Hes1タンパク質の発現が高い細胞は初期中胚葉に、発現が低い細胞は神経系に分化しやすい傾向を見いだしました(2)。また、ES細胞からの神経分化に必要なNotchシグナルの活性化が、Hes1によって負に調節されている事も分かりました(3)。この結果は、分化誘導時のHes1の発現レベルがNotchシグナルのON、OFFを調節し、分化方向の決定に寄与していることを示します(3, 4)。 | |
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+ | 以上の発見により、Hes1の短周期の発現振動によって、様々な分化のポテンシャルをもつES細胞がつくられ、幹細胞の不均一な分化に寄与することが分かりました。遺伝子の発現の振動は、同じ遺伝的背景を持つES細胞が、多様な細胞応答を可能にする戦略の一つかもしれません。 | ||
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+ | 1. Lowell, S. et al. (2006) PLoS Biol. 4: 805-818. | ||
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+ | 2. Kobayashi , T. et al.(2009) Genes & Dev. 23: 1870-1875. | ||
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===哺乳類脊髄神経回路網の作動メカニズムの生理学的解析=== | ===哺乳類脊髄神経回路網の作動メカニズムの生理学的解析=== |
Revision as of 18:13, 27 October 2010
第三回年会 (セッション4)時空間ダイナミクスの定量生物学
日時
2010/11/28 13:30-15:30 セッション4
Chair
- 広井賀子(慶大)
概要
転写因子Hes1の発現振動によるES細胞の分化調節機構
- 小林 妙子(京都大学ウイルス研究所)
近年、胚性幹(ES)細胞から様々な種類の細胞を分化誘導する方法が確立されてきていますが、いずれの方法においてもES細胞は均一に分化するのではなく、個々の細胞がばらばらなタイミングで様々な方向へ分化してゆきます(1)。このES細胞の「分化の不均一性」は長年観察されていたものの、そのメカニズムはほとんど分かっていませんでした。
私たちは、抑制型の転写因子Hes1に着目をしました。Hes1は、ES細胞集団で豊富に発現していますが、個々のES細胞を観察すると、細胞内では、主に3-5時間の周期で発現が振動していることを見いだしました(2)。Hes1は転写因子であり、その発現レベルの変動は、下流遺伝子の発現変動も引き起こしていました。Hes1の発現レベルが高いES細胞と低いES細胞を分離して分化能力を比較した結果、Hes1タンパク質の発現が高い細胞は初期中胚葉に、発現が低い細胞は神経系に分化しやすい傾向を見いだしました(2)。また、ES細胞からの神経分化に必要なNotchシグナルの活性化が、Hes1によって負に調節されている事も分かりました(3)。この結果は、分化誘導時のHes1の発現レベルがNotchシグナルのON、OFFを調節し、分化方向の決定に寄与していることを示します(3, 4)。
以上の発見により、Hes1の短周期の発現振動によって、様々な分化のポテンシャルをもつES細胞がつくられ、幹細胞の不均一な分化に寄与することが分かりました。遺伝子の発現の振動は、同じ遺伝的背景を持つES細胞が、多様な細胞応答を可能にする戦略の一つかもしれません。
1. Lowell, S. et al. (2006) PLoS Biol. 4: 805-818.
2. Kobayashi , T. et al.(2009) Genes & Dev. 23: 1870-1875.
3. Kobayashi, T and Kageyama, R. (2010) Genes Cells, 15: 689-698.
4. Kobayashi, T and Kageyama, R. (2010) Cell Cycle 9: 207-208
哺乳類脊髄神経回路網の作動メカニズムの生理学的解析
- 西丸 広史(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
マウス胚左右軸を決めるノード繊毛運動の協同性
- 篠原 恭介1・高松 敦子2 (1 大阪大学 大学院生命機能研究科, 2 早稲田大学 理工学部 電気・情報生命工学科)
マウス初期胚において受精後7.5日から8.0日の間に胚体の正中線上にあるノード内で、繊毛(長さ2-3 umの有毛細胞)の時計回り回転運動によりノード流と呼ばれる左向きの流れが発生し、これが左右非対称な遺伝子発現を誘導し、左右軸を決める事が知られている。本研究ではノード流の速度分布と繊毛の回転運動を粒子画像流速測定法(PIV法)と回転位相差の固定確率を用いて定量的に計測し、繊毛間の協同性解析を行った。また、位相振動子と呼ばれる、振動ユニットを相互作用させた系と数値流体力学を組み合わせた数理モデルシミュレーションを行い、実験結果と比較・検証した。ノード内の繊毛は自らが発生する流れを通じて結合し、繊毛運動の協同性と流れの速度はトレードオフの関係にある事が示唆された。また、最近ノード繊毛の運動性が著しく低下するが左右異常を示さない興味深い変異体を見つけたので併せて報告する。
研究内容の紹介以外に、工学出身者と生物物理学研究者の共同研究のきっかけや問題解決のアプローチの違いなどに言及できればと思います。
細胞内自己組織化による自発シグナル生成 - Organized randomness -
- 上田 昌宏1・柴田 達夫2 ( 1 大阪大学大学院生命機能研究科, 2 J広島大学 大学院理学研究科)