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==第三回年会 (セッション4)時空間ダイナミクスの定量生物学 ==
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==第三回年会 (セッション3)大規模情報の定量生物学 ==
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講演者: 斉藤典子(熊大)、二階堂愛(理研CDB)
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===日時===
 
===日時===
2010/11/28 13:30-15:30  セッション4
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2010/11/28 10:00-11:00 セッション3
  
 
=== Chair===
 
=== Chair===
*広井賀子(慶大)
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*木村 暁(遺伝研)
  
 
=== 概要 ===
 
=== 概要 ===
  
===転写因子Hes1の発現振動によるES細胞の分化調節機構===
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===細胞形態の定量解析と分類===
*小林 妙子(京都大学ウイルス研究所) 
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*○斉藤典子、徳永和明、*村瀬八重子、*小林民代、*坂内誠、中尾光善(熊本大・発生医学研究所・細胞医学、*オリンパス株式会社) 
 近年、胚性幹(ES)細胞から様々な種類の細胞を分化誘導する方法が確立されてきていますが、いずれの方法においてもES細胞は均一に分化するのではなく、個々の細胞がばらばらなタイミングで様々な方向へ分化してゆきます(1)。このES細胞の「分化の不均一性」は長年観察されていたものの、そのメカニズムはほとんど分かっていませんでした。
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細胞核内は遺伝子の転写、複製、RNAのプロセッシングなど生命活動に重要な事象が複雑な制御を受けながら起こるため、高度に組織化され、染色体間領域に様々な核内構造体が存在する。発生・分化の各過程や各種の疾患において、遺伝子の発現プロファイルがグローバルに変換するとともに、染色体を含めた核内構造がダイナミックに変動する。細胞核の形態は細胞状態を評価する指標として優れており、例えば、癌細胞における核構造異常(核異型)は病理学的な診断に広く用いられている。これらの形態を数値化し、客観的な評価基準を確立することは、生命科学の基礎研究および臨床医学において有益と考えられる。そこで我々は細胞核の形状をコンピュータプログラム(Olympus CELAVIEW RS100)に自動認識させて測定、計測する“モデルベースド”な方法と、多目的パターン認識ソフトウエア(WND-CHARM)を用いて機械視覚・学習を経て形態の類似度を計測し、細胞の状態を自動分類・評価する、“モデルフリーシステム”のふたつの異なるアプローチを確立することを目指している。現在までに我々は動物培養細胞系を用いて、正常細胞群および異常細胞群の核内構造体(核スペックル、カハールボディ、PMLボディ)や核膜の形態の数値化を行った。siRNA処理を施した細胞に、蛍光免疫染色を施し、イメージングサイトメータ(Olympus Celaview RS100)で画像を多量取得し、多因子画像解析計算法を施行することにより、各構造体の形態的特徴を自動検出・計測し、個々の細胞または細胞集団における核内構造を定量的に評価した。これらに加え、がん疾患組織を含む様々な細胞形態の類似度を定量的に評価し、診断補助技術などへの応用の可能性を見出した。
 私たちは、抑制型の転写因子Hes1に着目をしました。Hes1は、ES細胞集団で豊富に発現していますが、個々のES細胞を観察すると、細胞内では、主に3-5時間の周期で発現が振動していることを見いだしました(2)。Hes1は転写因子であり、その発現レベルの変動は、下流遺伝子の発現変動も引き起こしていました。Hes1の発現レベルが高いES細胞と低いES細胞を分離して分化能力を比較した結果、Hes1タンパク質の発現が高い細胞は初期中胚葉に、発現が低い細胞は神経系に分化しやすい傾向を見いだしました(2)。また、ES細胞からの神経分化に必要なNotchシグナルの活性化が、Hes1によって負に調節されている事も分かりました(3)。この結果は、分化誘導時のHes1の発現レベルがNotchシグナルのON、OFFを調節し、分化方向の決定に寄与していることを示します(3, 4)。
 
 
 
 以上の発見により、Hes1の短周期の発現振動によって、様々な分化のポテンシャルをもつES細胞がつくられ、幹細胞の不均一な分化に寄与することが分かりました。遺伝子の発現の振動は、同じ遺伝的背景を持つES細胞が、多様な細胞応答を可能にする戦略の一つかもしれません。 
 
 
 
1. Lowell, S. et al. (2006) PLoS Biol. 4: 805-818.<br>
 
2. Kobayashi , T. et al.(2009) Genes & Dev. 23: 1870-1875.<br>
 
3. Kobayashi, T and Kageyama, R. (2010) Genes Cells, 15: 689-698.<br>
 
4. Kobayashi, T and Kageyama, R. (2010) Cell Cycle 9: 207-208
 
  
 
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[http://q-bio.jp/wiki/定量生物学の会_第三回年会_(2010/11)#.E3.82.BB.E3.83.83.E3.82.B7.E3.83.A7.E3.83.B3.EF.BC.8811.E6.9C.8827.E6.97.A5.E3.80.8128.E6.97.A5.E9.96.8B.E5.82.AC.EF.BC.89 第三回年会セッションへ]
 
[http://q-bio.jp/wiki/定量生物学の会_第三回年会_(2010/11)#.E3.82.BB.E3.83.83.E3.82.B7.E3.83.A7.E3.83.B3.EF.BC.8811.E6.9C.8827.E6.97.A5.E3.80.8128.E6.97.A5.E9.96.8B.E5.82.AC.EF.BC.89 第三回年会セッションへ]
  
===遺伝子改変マウスを用いた哺乳類脊髄神経回路網の機能解析===
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===次世代シーケンサーによる細胞分化に伴う転写制御ネットワーク再構成の包括的かつ定量的な測定===
*西丸 広史(筑波大学大学院・人間総合科学研究科)
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*二階堂 愛(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 機能ゲノミクスユニット)
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私たちの心と体の動きは、中枢神経系にある神経細胞がお互いに結合して形成する神経回路によって生み出されていると考えられている。しかし哺乳類の多くの神経回路では、どのような性質をもった神経細胞の電気活動がどのように組み合わさることで個々の回路からの出力パターンが最終的に形成されるのか、という基本的なことさえほとんどわかっていない。例えば、私たちヒトを含めた地上に暮らす哺乳類が歩くときには、左右の足のそれぞれの関節をリズミックかつスムーズに動かすことで推進力を生み出している。このときの時間的・空間的出力パターンはそれぞれの筋群を直接支配する運動ニューロンが、脊髄に局在する神経回路で作られた指令を受けてリズミックに発火することによって形成される。このような運動神経回路はその出力をモニタすることが容易なことから、哺乳類の神経回路の作動機序の格好の研究対象となっているが、回路そのものの生物学的構造、例えば回路内のニューロンがどのように結合し、それぞれの活動がどのように組み合わさることによって機能的な運動出力が作られているのかという点はほとんど明らかにされていない。その要因として回路の機能的な結合を保ちつつ、脊髄の複雑さを乗り越えてアプローチする方法が限られていたことが挙げられる。しかし近年、哺乳類の分子生物学的、遺伝子工学的な実験モデルとして最も確立されているマウスを用いることにより、脊髄の運動を生み出す神経機構、特に回路を構成する脊髄介在ニューロンの電気生理学的性質、活動の制御様式さらにはその役割の研究が大きく進みつつある。本発表では、運動の発現に関与する神経回路の作動メカニズムに関して、遺伝改変マウスを用いた脊髄抑制性ニューロンの機能解析に関する最近の我々の取り組みについて、特に運動ニューロンを反回抑制回路のシナプスレベルでの解析を紹介する。
 
 
 
 
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我々のからだは約300種類の細胞からなる。これらの細胞はたったひとつの細胞に由来し、原則的にはすべて同じゲノム配列を持つ。均一な細胞から多様な細胞の個性を作り出すものはなにか、また、どのようにその個性を維持するのかを明らかにすることは、我々の体の成り立ち(発生)や維持(再生)を理解することに繋がるため、生命科学の重要な問題である。
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[http://q-bio.jp/wiki/定量生物学の会_第三回年会_(2010/11)#.E3.82.BB.E3.83.83.E3.82.B7.E3.83.A7.E3.83.B3.EF.BC.8811.E6.9C.8827.E6.97.A5.E3.80.8128.E6.97.A5.E9.96.8B.E5.82.AC.EF.BC.89 第三回年会セッションへ]
 
 
 
===マウス胚左右軸を決めるノード繊毛運動の協同性===
 
*篠原 恭介1・高松 敦子2 (1 大阪大学 大学院生命機能研究科, 2 早稲田大学 理工学部 電気・情報生命工学科)
 
  
マウス初期胚において受精後7.5日から8.0日の間に胚体の正中線上にあるノード内で、繊毛(長さ2-3 umの有毛細胞)の時計回り回転運動によりノード流と呼ばれる左向きの流れが発生し、これが左右非対称な遺伝子発現を誘導し、左右軸を決める事が知られている。本研究ではノード流の速度分布と繊毛の回転運動を粒子画像流速測定法(PIV法)と回転位相差の固定確率を用いて定量的に計測し、繊毛間の協同性解析を行った。また、位相振動子と呼ばれる、振動ユニットを相互作用させた系と数値流体力学を組み合わせた数理モデルシミュレーションを行い、実験結果と比較・検証した。ノード内の繊毛は自らが発生する流れを通じて結合し、繊毛運動の協同性と流れの速度はトレードオフの関係にある事が示唆された。また、最近ノード繊毛の運動性が著しく低下するが左右異常を示さない興味深い変異体を見つけたので併せて報告する。<br>
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近年、マイクロアレイや網羅的なcDNA配列決定などのオミックス技術により、細胞の性質を決める転写因子の同定が進んできた (: iPS細胞)。これにより、細胞の状態は、数千の遺伝子を制御するわずか数種類の転写因子によって作り出せることが明らかになりつつある。これらの研究から明らかになったことの1つとして、「細胞状態の数だけ転写因子の種類が必要となるわけではない」ということがある。ある転写因子は、明らかに、さまざまな細胞状態で再利用されている。
研究内容の紹介以外に、工学出身者と生物物理学研究者の共同研究のきっかけや問題解決のアプローチの違いなどに言及できればと思います。
 
 
 
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[http://q-bio.jp/wiki/定量生物学の会_第三回年会_(2010/11)#.E3.82.BB.E3.83.83.E3.82.B7.E3.83.A7.E3.83.B3.EF.BC.8811.E6.9C.8827.E6.97.A5.E3.80.8128.E6.97.A5.E9.96.8B.E5.82.AC.EF.BC.89 第三回年会セッションへ]
 
  
===細胞内自己組織化による自発シグナル生成 - Organized randomness - ===
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ここで疑問となるのは、「同じ転写因子が異なる細胞状態をどのようにして作り出すのか」という点である。我々は、このような再利用される転写因子が、ほかの転写因子と協調して働くことで、細胞種依存的に、制御する遺伝子を切り替えたり、制御の方向(活性・抑制化)を変えたりすると考えた。この現象を「転写制御ネットワークの再構成(rewiring)」 と呼ぶことにする。
*上田 昌宏1・柴田 達夫2<br> ( 1 大阪大学大学院・生命機能研究科, 2 理化学研究所・CDB)
 
  
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ネットワークの再構成を定量的に測定するには、遺伝子の転写量を測定するマイクロアレイなどの技術では達成することは困難である。しかし、近年、高出力・高並列性を備えた次世代シーケンサーが登場し、免疫沈降法との技術的な統合により、特定の転写因子に限れば、包括的な転写因子結合領域を安価に高速に、そして定量的に、同定できるChIP-seq法が開発された。
上田昌宏 (大阪大学大学院・生命機能研究科)
 
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「細胞は分子反応・分子運動の確率性に起因する”ゆらぎ”を内包したシステムであ
 
る。確率的にはたらく分子を要素として情報処理機能・運動機能などを有する分子シ
 
ステムが自律的に組織化され,変動する環境に対して巧みに適応できる.本セミナー
 
では,分子レベルから細胞レベルへと階層を登りながら,各階層にみられる機能発現
 
とゆらぎの関係について議論する.「ゆらぐ分子による確率的シグナル伝達」,「分
 
子ネットワークの自己組織化による自発シグナル生成」,「細胞運動のゆらぎを利用
 
した環境変動への柔軟な応答」等、ゆらぎの寄与が顕著な生命現象を取り上げ,その
 
現象の動的な振る舞い(ダイナミクス)を実験と理論の両面から明らかにする.ゆら
 
ぎは細胞の安定性を乱す邪魔者ではなく,むしろ細胞の環境適応性を高めるのに役立っ
 
ている可能性について議論したい.」
 
  
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本研究では、胚性幹細胞と栄養外胚葉細胞の両方で再利用される転写因子に注目し、分化の際にどのようにその転写因子がターゲットや活性を変えるかを捉えることを目的とした。まず胚性幹細胞から栄養外胚葉細胞へ分化する培養細胞系を用い、経時的にマイクロアレイとChIP-seqを行なった。この定量データから、この転写因子と協調的に働く細胞状態特異的な転写因子を同定した。さらに、転写因子結合が遺伝子発現に対し、活性的に働くのか、抑制的に働くのかを予測するために、転写因子のプロモータへの結合量がmRNAの転写量に与える影響について定量的なモデルを構築し、転写因子活性を予測した。これらの結果より、転写制御ネットワークの構造がダイナミックに再構築される様子を明らかにすることができた。
柴田達夫(理化学研究所・CDB)
 
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「生命の複雑な過程に関する情報を統合して生命の高次の現象を調べるために、数理
 
モデルや計算を用いた理論的な方法は有効な手段のひとつである。また、理論的な方
 
法を通じて抽象された現象の数理的メカニズムは、特定のシステムに依存しない普遍
 
的な動作原理に迫ることができるだろう。そのために、生命現象を定量的に計測し、
 
それをもとに定量的なデータ解析を行い、その結果を説明する理論を構築するアプロー
 
チが必要である。本研究では、走化性細胞のシグナル伝達系で観察された自己組織化現象による自発的シグナル形成のメカニズムに、蛍光イメージングデータの統計的解析とそれにもとづく数理モデルの構築によって迫る。さらに、構築された数理モデルを用いて、勾配の安定なセンシングのメカニズムについて考察する」
 
  
 
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Latest revision as of 01:03, 2 November 2010

第三回年会 (セッション3)大規模情報の定量生物学

講演者: 斉藤典子(熊大)、二階堂愛(理研CDB)

日時

2010/11/28 10:00-11:00 セッション3

Chair

  • 木村 暁(遺伝研)

概要

細胞形態の定量解析と分類

  • ○斉藤典子、徳永和明、*村瀬八重子、*小林民代、*坂内誠、中尾光善(熊本大・発生医学研究所・細胞医学、*オリンパス株式会社) 


細胞核内は遺伝子の転写、複製、RNAのプロセッシングなど生命活動に重要な事象が複雑な制御を受けながら起こるため、高度に組織化され、染色体間領域に様々な核内構造体が存在する。発生・分化の各過程や各種の疾患において、遺伝子の発現プロファイルがグローバルに変換するとともに、染色体を含めた核内構造がダイナミックに変動する。細胞核の形態は細胞状態を評価する指標として優れており、例えば、癌細胞における核構造異常(核異型)は病理学的な診断に広く用いられている。これらの形態を数値化し、客観的な評価基準を確立することは、生命科学の基礎研究および臨床医学において有益と考えられる。そこで我々は細胞核の形状をコンピュータプログラム(Olympus CELAVIEW RS100)に自動認識させて測定、計測する“モデルベースド”な方法と、多目的パターン認識ソフトウエア(WND-CHARM)を用いて機械視覚・学習を経て形態の類似度を計測し、細胞の状態を自動分類・評価する、“モデルフリーシステム”のふたつの異なるアプローチを確立することを目指している。現在までに我々は動物培養細胞系を用いて、正常細胞群および異常細胞群の核内構造体(核スペックル、カハールボディ、PMLボディ)や核膜の形態の数値化を行った。siRNA処理を施した細胞に、蛍光免疫染色を施し、イメージングサイトメータ(Olympus Celaview RS100)で画像を多量取得し、多因子画像解析計算法を施行することにより、各構造体の形態的特徴を自動検出・計測し、個々の細胞または細胞集団における核内構造を定量的に評価した。これらに加え、がん疾患組織を含む様々な細胞形態の類似度を定量的に評価し、診断補助技術などへの応用の可能性を見出した。


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次世代シーケンサーによる細胞分化に伴う転写制御ネットワーク再構成の包括的かつ定量的な測定

  • 二階堂 愛(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 機能ゲノミクスユニット)


我々のからだは約300種類の細胞からなる。これらの細胞はたったひとつの細胞に由来し、原則的にはすべて同じゲノム配列を持つ。均一な細胞から多様な細胞の個性を作り出すものはなにか、また、どのようにその個性を維持するのかを明らかにすることは、我々の体の成り立ち(発生)や維持(再生)を理解することに繋がるため、生命科学の重要な問題である。

近年、マイクロアレイや網羅的なcDNA配列決定などのオミックス技術により、細胞の性質を決める転写因子の同定が進んできた (例: iPS細胞)。これにより、細胞の状態は、数千の遺伝子を制御するわずか数種類の転写因子によって作り出せることが明らかになりつつある。これらの研究から明らかになったことの1つとして、「細胞状態の数だけ転写因子の種類が必要となるわけではない」ということがある。ある転写因子は、明らかに、さまざまな細胞状態で再利用されている。

ここで疑問となるのは、「同じ転写因子が異なる細胞状態をどのようにして作り出すのか」という点である。我々は、このような再利用される転写因子が、ほかの転写因子と協調して働くことで、細胞種依存的に、制御する遺伝子を切り替えたり、制御の方向(活性・抑制化)を変えたりすると考えた。この現象を「転写制御ネットワークの再構成(rewiring)」 と呼ぶことにする。

ネットワークの再構成を定量的に測定するには、遺伝子の転写量を測定するマイクロアレイなどの技術では達成することは困難である。しかし、近年、高出力・高並列性を備えた次世代シーケンサーが登場し、免疫沈降法との技術的な統合により、特定の転写因子に限れば、包括的な転写因子結合領域を安価に高速に、そして定量的に、同定できるChIP-seq法が開発された。

本研究では、胚性幹細胞と栄養外胚葉細胞の両方で再利用される転写因子に注目し、分化の際にどのようにその転写因子がターゲットや活性を変えるかを捉えることを目的とした。まず胚性幹細胞から栄養外胚葉細胞へ分化する培養細胞系を用い、経時的にマイクロアレイとChIP-seqを行なった。この定量データから、この転写因子と協調的に働く細胞状態特異的な転写因子を同定した。さらに、転写因子結合が遺伝子発現に対し、活性的に働くのか、抑制的に働くのかを予測するために、転写因子のプロモータへの結合量がmRNAの転写量に与える影響について定量的なモデルを構築し、転写因子活性を予測した。これらの結果より、転写制御ネットワークの構造がダイナミックに再構築される様子を明らかにすることができた。


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