Difference between revisions of "第六回年会セッション1"

From Japanese society for quantitative biology
Line 27: Line 27:
 
 我々はこれまでに、基礎生物学研究所と国立天文台の共同研究の元、ヒメツリガネゴケ細胞の光学特性を詳細に解析した上で、細胞を通過した光の屈折を補正する補償光学広視野蛍光顕微鏡の試作機を開発した。それを用いて、植物細胞の光学特性を模した人工試料像の歪みを補正し、さらにタマネギやヒメツリガネゴケ細胞の精細な細胞核ライブイメージングに成功した。発表では、現在得られている結果を報告するとともに、現在の補償光学顕微鏡システムの問題点やその応用性について議論したい。<br>
 
 我々はこれまでに、基礎生物学研究所と国立天文台の共同研究の元、ヒメツリガネゴケ細胞の光学特性を詳細に解析した上で、細胞を通過した光の屈折を補正する補償光学広視野蛍光顕微鏡の試作機を開発した。それを用いて、植物細胞の光学特性を模した人工試料像の歪みを補正し、さらにタマネギやヒメツリガネゴケ細胞の精細な細胞核ライブイメージングに成功した。発表では、現在得られている結果を報告するとともに、現在の補償光学顕微鏡システムの問題点やその応用性について議論したい。<br>
  
=== 細胞内輸送のナビゲーション機構 ===
+
=== 11:00+11:30 細胞内輸送のナビゲーション機構 ===
 
*岡田 康志(理研QbiC)<br>
 
*岡田 康志(理研QbiC)<br>
 
細胞内輸送は、さまざまな生命機能の兵站を担う重要な物流システムである。これまで細胞内輸送を担う分子モーターの同定とその動作メカニズムの研究は盛んであったが、細胞の中で分子モーターがどのように制御されているかについての知見は乏しい。例えば、物流システムとして考えた場合、それぞれの物資を必要としている場所に送り届けることが重要である。細胞においても、たとえば神経細胞では軸索と樹状突起には異なるタンパク質が局在しており、軸索に局在するタンパク質は軸索へ、樹状突起に局在するタンパク質は樹状突起へと輸送される。では、この輸送を担う分子モーターは、どのようにして自分の目的地を認識し、目的地へと正しく動くことが出来るのであろうか。
 
細胞内輸送は、さまざまな生命機能の兵站を担う重要な物流システムである。これまで細胞内輸送を担う分子モーターの同定とその動作メカニズムの研究は盛んであったが、細胞の中で分子モーターがどのように制御されているかについての知見は乏しい。例えば、物流システムとして考えた場合、それぞれの物資を必要としている場所に送り届けることが重要である。細胞においても、たとえば神経細胞では軸索と樹状突起には異なるタンパク質が局在しており、軸索に局在するタンパク質は軸索へ、樹状突起に局在するタンパク質は樹状突起へと輸送される。では、この輸送を担う分子モーターは、どのようにして自分の目的地を認識し、目的地へと正しく動くことが出来るのであろうか。

Revision as of 16:30, 24 October 2013

分野を超える

講演者:
古川 修平(京都大学)
玉田 洋介(基生研)
岡田 康志(理研QbiC)

日時
2013年11月23日 10:20-12:00 セッション1

Chair
新井 由之(大阪大学)篠原恭介(大阪大学)


10:20-10:40 材料化学で生体ガス分子を操る

  • 古川 修平(京都大学)

ガス分子は我々人間と密接に関与している。宇宙に存在する99%以上の物質(ダークマターは除く)はガス分子(水素とヘリウム)である。次世代のエネルギー源は石油から天然ガス・シェールガス(ともにメタン)へと変わりつつあり、クリーンエネルギーとして水素が注目されている。我々人間も酸素なしではエネルギーを作れず生きていけない。このようなガス分子の中でも、細胞機能を制御する為に我々が自ら生産しているのが一酸化窒素(NO)や一酸化炭素(CO)である。これらガス分子は情報伝達物質(ガストランスミッター)として知られており、様々な細胞機能に関与している。しかしながら、そのガスとしての物理的性質と高い反応性のため取り扱いは非常に難しい。 本講演では、「ガストランスミッターを化学の力を用いていかに制御し、細胞生物学へ応用できるのか」について紹介する。特に、近年ガス分子を効率的に取り込むことで知られているポーラス材料である「多孔性配位高分子(PCP/MOF)」を用いた細胞内外へのNO放出の自在制御について報告する。

10:40-11:00 天体観測に用いる補償光学を応用したライブイメージングの新展開

  • 玉田 洋介(基生研)

 蛍光タンパク質の発見や生細胞蛍光プローブの開発以来、光を用いて生きた組織や細胞を観察するライブイメージングは分子生物学研究に不可欠の手法となっている。その一方、より高精細の細胞観察、もしくはより深い組織の観察への要求が強くなるにつれ顕著になってきたのが、生体内構造に由来する像の劣化の問題である。生体内・細胞内における多様な構造は一般にそれぞれ異なる屈折率を有しており、その境界を通過することによって光が屈折し、得られる像が劣化する。

 我々はこれまでに、分化細胞から幹細胞化を高効率に誘導でき、さらに多くの組織が単一の細胞層で構成されているヒメツリガネゴケを用いて、幹細胞化過程におけるクロマチン修飾のライブイメージングを行ってきた。しかしながら、一層の細胞内でも像が乱れ、期待した回折限界に近い核内ライブイメージングが行えていないのが現状である。

 こうした問題を解決できると期待されているのが、補償光学である。補償光学とは天文学において発展してきた技術で、地上から天体を観測する際に生じる大気揺らぎによる像の劣化を大幅に低減することができる。具体的には、大気揺らぎによって乱れた光の波面をセンサーでとらえてコンピューターで解析し、その乱れを補正する方向に可変形鏡のパネルを制御することにより、画像を取得する前の段階で波面を整え、鮮明な天体像を得ることができる。この原理を顕微鏡に応用できれば、細胞内構造に由来する光の屈折を補正し、精細なライブイメージングを行うことができると期待される。

 我々はこれまでに、基礎生物学研究所と国立天文台の共同研究の元、ヒメツリガネゴケ細胞の光学特性を詳細に解析した上で、細胞を通過した光の屈折を補正する補償光学広視野蛍光顕微鏡の試作機を開発した。それを用いて、植物細胞の光学特性を模した人工試料像の歪みを補正し、さらにタマネギやヒメツリガネゴケ細胞の精細な細胞核ライブイメージングに成功した。発表では、現在得られている結果を報告するとともに、現在の補償光学顕微鏡システムの問題点やその応用性について議論したい。

11:00+11:30 細胞内輸送のナビゲーション機構

  • 岡田 康志(理研QbiC)

細胞内輸送は、さまざまな生命機能の兵站を担う重要な物流システムである。これまで細胞内輸送を担う分子モーターの同定とその動作メカニズムの研究は盛んであったが、細胞の中で分子モーターがどのように制御されているかについての知見は乏しい。例えば、物流システムとして考えた場合、それぞれの物資を必要としている場所に送り届けることが重要である。細胞においても、たとえば神経細胞では軸索と樹状突起には異なるタンパク質が局在しており、軸索に局在するタンパク質は軸索へ、樹状突起に局在するタンパク質は樹状突起へと輸送される。では、この輸送を担う分子モーターは、どのようにして自分の目的地を認識し、目的地へと正しく動くことが出来るのであろうか。

私たちは、神経細胞の軸索への輸送をモデルとして、蛍光ライブイメージング、細胞内1分子イメージングを in vitro 1分子アッセイおよびクライオ電子顕微鏡を用いた構造解析と組み合わせることで、その機構を分子構造のレベルから理解しようと試みている。本演題では、軸索への輸送を担う分子モーターの代表であるキネシン(KIF5, kinesin-1)について、微小管の構造多型が細胞内でキネシンの運動を制御する機構を中心に最近の知見を含めて議論したい。

ディスカッション



第六回年会ページトップに戻る