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Chair: 日比野佳代(遺伝研)
  
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==17:15-17:30  1細胞トランスクリプトームの記号学的分類==
==15:00-15:30  自己組織化系のベイズ力学==
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*飯田 渓太 (大阪大学)  
*磯村 拓哉 (理化学研究所)
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*要旨:生体組織における細胞集団の遺伝子発現の多様性を調べる方法として、個々の細胞の発現量に着目した1細胞トランスクリプトーム解析が注目されている。また、細胞の位置関係や微小環境などを詳細に調べる方法として、生体組織に配置されたスポット上の全 RNA量を計測する空間トランスクリプトーム解析も近年盛んに研究されている。今日、RNA量を成分とする遺伝子×細胞の行列データにより細胞分類を行う情報学的手法は多数提案されているが、こうした従来の方法では生命の複雑性を捉えることは難しい。特に、がんのトランスク リプトームでは多くの遺伝子発現が正常でないため、亜集団の推定、薬剤の有効性評価、がん可塑性の機構解明などを目的としたデータ駆動的アプローチにおいては、より多面的な解析手法と文献情報の効果的活用方法の開発が求められている。本研究では、知識データを活用した単一細胞トランスクリプトーム解析および空間トランスクリプトーム解析にも適用可能な理論開発を行った。そのため の解析ツールASURATを主にR言語により開発した(Iida Bioconductor, 2022)。 ASURATを用いることで、1細胞データを疾患、細胞種別、生化学過程、パスウェイなどの種々の生物機能の観点から多面的に分類することが可能になる (Iida et al., Bioinformatics, 2022)。実データへの適用例として、膵がん患者の空間トランスクリプトーム・1細胞トランスクリプトーム解析を行い、先行研究(Moncada et al., Nat. Biotechnol., 2020)では正常な膵組織と判断されていた領域に異常な膵細胞が含まれることを見出した。この領域では炎症性サイ トカインを放出するヘルパーT細胞が混在していることが示唆された。現在、 ASURATの後継として、さらに強力な分類器の開発を行っている。ASURATの開発を通じて、従来の課題である1細胞データの多面的分類および文献情報の効果的活用が可能になると期待される。
*要旨:ベイズ力学は、力学系をベイズ推論として概念化するための、自由エネルギー原理を発展させた新たな分野である。しかし、現実的な自己組織化系にベイズ力学を適用するためには、その系が潜在的に持つ生成モデルの解明が不可欠である。本発表では、一般的な力学系のハミルトニアンはある種の生成モデルのクラスに対応しており、その結果、系のヘルムホルツエネルギーは同定された生成モデルの下での変分自由エネルギーと等価になることを紹介する。ヘルムホルツエネルギーを最小化する自己組織化は、系内部のハミルトニアンを環境のハミルトニアンと一致させる方向へと変化させ、その結果一般化同期が現れる。つまり、これらの自己組織化系は、相互作用する環境の変分ベイズ推論を潜在的に実行していると見なすことができる。この特性が現実の系において自然に現れることを、結合振動子、神経回路モデル、培養神経回路、量子コンピュータの例を用いて紹介する。ベイズ力学の観点は、環境と相互作用する自己組織化系の漸近的性質に関する理解と予測を可能とし、知性の創発の根底にある潜在的なメカニズムに関する洞察を与えてくれる。
 
*参考文献
 
**[1] https://arxiv.org/abs/2311.10216
 
**[2] https://www.nature.com/articles/s41467-023-40141-z
 
**[3] https://www.nature.com/articles/s42003-021-02994-2
 
  
==15:30-16:00  カオスを情報処理に活用する==
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==17:30-17:45  植物の器官発生におけるTuring instabilityと相互抑制系のカップリングによるパターン形成制御機構==
*中嶋 浩平 (東京大学)
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*池内 桃子 (奈良先端科学技術大学院大学)
*要旨:カオスは、自然界に普遍的に存在し、極めて複雑なダイナミクスを生み出す。このダイナミクスを計算資源として積極的に活用することはできないか?素朴に考えると複雑なダイナミクスは表現能力的には豊潤で多くのことができそうに思える。一方、初期値鋭敏性を考えたとき、入力に対する再現性は低そうだ。この二つの性質を乗りこなすことがここでの課題となる。本発表では、近年のリザバー計算の展開に紐づけて、カオスを有効活用するシナリオをいくつか紹介する。
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==17:45-18:00  細胞骨格の直接力学摂動に対する構造応答==
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*折井 良太 (横浜市立大学)
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*要旨:微小管とアクチンは、それら自身が独立に振る舞うのではなく、互いに協同して機能し、特に力学的に相互作用していることが知られている。例えば、微小管の伸張はアクチンメッシュワークによって遮られる。また、微小管はアクチン繊維に沿って移動、変形、破壊される。このような力学的な関係は、どの分子に起因するか、といった生物学的な理解が進んでいる一方で、どのくらいの力をかけるとどのくらい変形するか、といった物理的な理解は未だされていない。その理由は、これらの研究の大部分は阻害剤実験をはじめとする化学的な摂動を基づくもので、直接的な力学測定が行われていないことにある。本研究は、磁性流体をプローブとした細胞内磁気ピンセットを用いて細胞内で直接的な力学操作を行うことで、微小管とアクチンの力学摂動に対する応答を明らかにする。中心体を介した核と微小管の連結に着目して、核に磁性流体を注入し磁場を 印加することで、核-微小管複合体に大きな力を加えることに成功した。核-微小管複合体に約5 nNの力を約20秒加えることで、核-微小管複 合体を約2 um 動かした。このとき微小管ネットワーク構造に着目すると、微小管の変形は力を加えた位置で最も大きく、細胞の端に向かって小さくなっていることが分かった。この結果は、微小管が離散的な構造としてではなく、連続体として外力に応答することを示している。また微小管の変位と距離は反比例の関係にあり、この性質は線形弾性体の特徴と一致する。さらに、微小管ネットワークに力を加えたときのアクチンメッシュワークの変位と 距離の関係は微小管と同様であった。これらの結果は、微小管とアクチンが細胞質全域で力学的に結合しており、その結果2つの構造が統合された線形弾性体として振る舞うことを示している。
  
==16:00-16:30  大腸菌代謝動力学モデルの恒常性と死==
 
*姫岡 優介 (東京大学)
 
*要旨:どのような生物も代謝を行なっている。外部に存在する栄養分子を他の分子へと変換し、その過程でエネルギーや、細胞体の構成要素を取り出すという営みは自己維持や自己複製にとって、なくてはならないものである。細胞代謝の理論的研究は、その関心を定常状態に限定することによって進展してきた。それらの研究では「代謝状態が定常状態に到達し、そこに恒常的に維持される」ことは前提条件とされている。しかし、1,000種を超える化学物質が、1,000種を超える化学反応によって相互に変換されているという極めて複雑な系において、常に代謝状態が安定になるとはにわかに信じがたい。そこで「果たして定常状態はそれほど安定なのか」を、動力学モデルを使って問うことにした。まず、大腸菌中心代謝経路のモデルは適当にパラメーターをアサインすると、いとも簡単に「代謝が回らない」状態になることが分かった。また、パラメーターを慎重に選んで代謝が回るモデルを作ったとしても、代謝物質濃度の摂動への応答性が、細胞の「おもちゃモデル」に比べると非常に強いことも明らかになった。安定な定常状態というものは、少なくとも代謝の動力学モデルの範囲においてはそう易々と得られるものではないようである。「恒常性・安定性の崩壊」の極限として「細胞死」がある。細胞が死にゆくプロセスは、定常状態性を仮定する代謝静力学のモデルでは原理的に理解することのできない現象であるため、モデル細胞がどのように死ぬのか、モデル細胞のPoint of No Returnは何によって決まるのか、といったことも加えて議論したい。
 
*参考文献
 
**[1] YH, and Chikara Furusawa. 2023., bioRxiv. https://doi.org/10.1101/2023.10.18.562862.
 
**[2] YH, and Namiko Mitarai. 2022., Phys. Rev. Res. 4 (4): 043223.
 
**[3] 畠山哲央, 姫岡優介, 『システム生物学入門』, 講談社
 
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Latest revision as of 08:50, 24 December 2023

ショートトーク

1/6 17:15-18:00
Chair: 日比野佳代(遺伝研)

17:15-17:30 1細胞トランスクリプトームの記号学的分類

  • 飯田 渓太 (大阪大学)
  • 要旨:生体組織における細胞集団の遺伝子発現の多様性を調べる方法として、個々の細胞の発現量に着目した1細胞トランスクリプトーム解析が注目されている。また、細胞の位置関係や微小環境などを詳細に調べる方法として、生体組織に配置されたスポット上の全 RNA量を計測する空間トランスクリプトーム解析も近年盛んに研究されている。今日、RNA量を成分とする遺伝子×細胞の行列データにより細胞分類を行う情報学的手法は多数提案されているが、こうした従来の方法では生命の複雑性を捉えることは難しい。特に、がんのトランスク リプトームでは多くの遺伝子発現が正常でないため、亜集団の推定、薬剤の有効性評価、がん可塑性の機構解明などを目的としたデータ駆動的アプローチにおいては、より多面的な解析手法と文献情報の効果的活用方法の開発が求められている。本研究では、知識データを活用した単一細胞トランスクリプトーム解析および空間トランスクリプトーム解析にも適用可能な理論開発を行った。そのため の解析ツールASURATを主にR言語により開発した(Iida Bioconductor, 2022)。 ASURATを用いることで、1細胞データを疾患、細胞種別、生化学過程、パスウェイなどの種々の生物機能の観点から多面的に分類することが可能になる (Iida et al., Bioinformatics, 2022)。実データへの適用例として、膵がん患者の空間トランスクリプトーム・1細胞トランスクリプトーム解析を行い、先行研究(Moncada et al., Nat. Biotechnol., 2020)では正常な膵組織と判断されていた領域に異常な膵細胞が含まれることを見出した。この領域では炎症性サイ トカインを放出するヘルパーT細胞が混在していることが示唆された。現在、 ASURATの後継として、さらに強力な分類器の開発を行っている。ASURATの開発を通じて、従来の課題である1細胞データの多面的分類および文献情報の効果的活用が可能になると期待される。

17:30-17:45 植物の器官発生におけるTuring instabilityと相互抑制系のカップリングによるパターン形成制御機構

  • 池内 桃子 (奈良先端科学技術大学院大学)

17:45-18:00 細胞骨格の直接力学摂動に対する構造応答

  • 折井 良太 (横浜市立大学)
  • 要旨:微小管とアクチンは、それら自身が独立に振る舞うのではなく、互いに協同して機能し、特に力学的に相互作用していることが知られている。例えば、微小管の伸張はアクチンメッシュワークによって遮られる。また、微小管はアクチン繊維に沿って移動、変形、破壊される。このような力学的な関係は、どの分子に起因するか、といった生物学的な理解が進んでいる一方で、どのくらいの力をかけるとどのくらい変形するか、といった物理的な理解は未だされていない。その理由は、これらの研究の大部分は阻害剤実験をはじめとする化学的な摂動を基づくもので、直接的な力学測定が行われていないことにある。本研究は、磁性流体をプローブとした細胞内磁気ピンセットを用いて細胞内で直接的な力学操作を行うことで、微小管とアクチンの力学摂動に対する応答を明らかにする。中心体を介した核と微小管の連結に着目して、核に磁性流体を注入し磁場を 印加することで、核-微小管複合体に大きな力を加えることに成功した。核-微小管複合体に約5 nNの力を約20秒加えることで、核-微小管複 合体を約2 um 動かした。このとき微小管ネットワーク構造に着目すると、微小管の変形は力を加えた位置で最も大きく、細胞の端に向かって小さくなっていることが分かった。この結果は、微小管が離散的な構造としてではなく、連続体として外力に応答することを示している。また微小管の変位と距離は反比例の関係にあり、この性質は線形弾性体の特徴と一致する。さらに、微小管ネットワークに力を加えたときのアクチンメッシュワークの変位と 距離の関係は微小管と同様であった。これらの結果は、微小管とアクチンが細胞質全域で力学的に結合しており、その結果2つの構造が統合された線形弾性体として振る舞うことを示している。


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