From Japanese society for quantitative biology

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第四回年会 (セッション3)定量的アプローチの深化: 定性的な概念を定量化で捉える

入江 直樹 (理研・CDB)、谷口 雄一 (理研・QBiC)、山縣 一夫 (大阪大学微生物病研究所)

日時

2012/1/9 10:00-11:30 セッション3

Chair

  • 小林 徹也 (東京大学)

概要

哺乳動物初期胚発生における補償作用を定量化してみる

  • 山縣 一夫 (大阪大学微生物病研究所)

現在、先進諸国では10組に1.5組以上のカップルが不妊症で悩んでいる。体外受精や顕微授精などの生殖補助医療の進歩により、そのようなカップルでも子を持てる可能性が拡大しているが、その成功率は10~20%前後と、大部分は流産に陥っているのが現状である。その主たる原因として、高齢化や外的環境ストレスによる卵子・初期胚の「質の低下」が想定されている。しかし、「質」の実態はいまだ不明な部分が多く、そのため明確な評価基準に乏しいと言わざるを得ない。妊娠・出生率を向上させるためには、その実態を明らかにし、さらにそれを正確に評価することが必要不可欠である。
そのための方法論として、単一胚の発生過程を受精卵から個体まで継続的に観察し続け、さらにそれを定量的に表すことが必要になるとわれわれは考えた。そうすることで、発生過程で観察された何らかの現象や異常について、それが個体発生に与える影響を直接推し量ることが可能になるだけでなく、発生過程に見られるさまざまな現象間の関係についても数値として記述できるはずである。そこで、われわれはライブセルイメージング技術をベースにした、新しい初期胚の解析技術を開発した。具体的には、蛍光プローブをコードするmRNAを試験管内で合成し、受精卵に注入する。その後、胚を独自のイメージング装置で培養しながら連続観察を行う。観察後の胚を仮親に移植することで個体発生能を検討する(参考文献1)。また、得られた多次元画像情報からさまざまな特徴量を自動抽出し、その数値を単一胚ごとに記述し、クロス集計や相関解析を行うことで各現象間の関係を明らかにしていく。これらの定量データを先の個体発生能と関連付けることで、産仔に至る胚の条件を探ってゆき、それをさまざまなプローブや胚で繰り返すことで胚の質の実態や評価に迫ろうというものである。
これまでこの方法論により、染色体をラベルするHistone H2B-mRFP1をプローブにすることで、第1卵割時における異常な染色体分配が初期流産の一原因であることをマウス胚で明らかにした(参考文献2)。また、相関性解析から、割球間の卵割の同期性の低いものほど染色体分配異常を起こしやすいことがわかった。現在、同様の手法を用いて、培養中の酸素濃度に摂動を与えた場合に、どのような応答が見られるのかについて定量化する解析を進めている。本会では、先に述べた我々の研究結果に加えて、それら予備的なデータを紹介させていただきたい。一方、今後さらに研究を進展させていくには、大規模データの統計的な解析法や、さらなる画像解析技術の向上が必要不可欠と考えている。しかし、恥ずかしながら我々にはそのような知識や技術に乏しいため、願わくは本会にご参加の皆様のご助言やご助力をいただければ幸いである。

参考文献
1. Yamagata K, Suetsugu R, Wakayama T. Long-term, six-dimensional live-cell imaging for the mouse preimplantation embryo that does not affect full-term development. J Reprod Dev. 2009 Jun;55(3):343-50. Epub 2009 Mar 19.[1]
2. Yamagata K, Suetsugu R, Wakayama T. Assessment of chromosomal integrity using a novel live-cell imaging technique in mouse embryos produced by intracytoplasmic sperm injection. Hum Reprod. 2009 Oct;24(10):2490-9. Epub 2009 Jul 2.[2]

観念形態学の古典問題に定量化で挑む

  • 入江 直樹 (理研・CDB)

 受精卵から成体ができるまでの発生過程をみると、異なる動物間でも似た形態・構造が現れる事に気付きます。この理由として、「発生は進化を繰り返すからだ」と説明したのがErnst Haeckel、1860年代のことです。進化と発生の関係性解明に向けて、あれから我々の理解は進んだのでしょうか?
 焦点は発生プログラムの進化的な距離・多様性をどうやって数値化するかにかかっています。しかし、これまで「見た目の類似性」という再現性に乏しい指標により主な議論が進められたため、当該分野は混沌としたまま現代生物学に統合されずといった状況が続きました。
 今回我々は、進化と胚発生の関係性解明のため、全胚由来の遺伝子発現プロファイルをGeneChipを使い種間比較し、それを数値化・定量化することで従来の仮説群を検証しました。形態情報こそ評価していないものの、方法論はメタゲノム解析のアナロジーとも言えます。慎重な統計解析のもと、我々の結果は発生砂時計モデルと呼ばれる仮説が提唱するように、咽頭胚期に代表される発生の中間的時期が保存されていることを示唆していました。
 妥当性が示唆されたモデルは、脊椎動物のボディプランについて新たな理解を与えるとともに、精密機器として発生現象をとらえることの危うさを示唆するものとも言えます。発表ではこうした点を含め幅広い議論を大歓迎いたします。

参考文献
1. Naoki Iriea and Shigeru Kuratani. Comparative transcriptome analysis reveals vertebrate phylotypic period during organogenesis. Nat Commun. 2011 March 22; 2: 248. doi: 10.1038/ncomms1248, PMCID: PMC3109953 [3]
2. Naoki Irie and Atsuko Sehara-Fujisawa. The vertebrate phylotypic stage and an early bilaterian-related stage in mouse embryogenesis defined by genomic information. BMC Biol. 2007; 5: 1. Published online 2007 January 12. doi: 10.1186/1741-7007-5-1 PMCID: PMC1797197[4]

1生細胞内の遺伝子発現の定量化とモデル化

  • 谷口 雄一 (理研・QBiC)

単一細胞のレベルでは内在するmRNA数とタンパク質数とがたえず乱雑に変動している.このため,ひとつひとつの細胞は,たとえ同じゲノムをもっていても,それぞれが個性的な振る舞いを示す.我々は,単一細胞内におけるmRNAとタンパク質の発現プロファイリングを単一分子検出レベルの感度で行うことにより,単一細胞のもつ特性の乱雑さをシステムワイドで定量化し,そこにあるゲノム共通の法則性を明らかにした(Taniguchi et al., Science, 2010).そのために,蛍光タンパク質遺伝子をそれぞれの遺伝子のC末端に結合させた大腸菌ライブラリーを1000株以上にわたって作製し,マイクロチップ上で単一分子感度での計測をシステマティックに行うことにより,それぞれの遺伝子におけるmRNAとタンパク質の絶対個数,ばらつき,細胞内局在などの情報を網羅的に取得した.その結果,全体の98%の遺伝子は発現するタンパク質数の分布において特定の共通構造をもっており,それらの分布構造の大きさは量子ノイズやグローバル因子による極限をもつことが判明した.本講演では、研究で確立した単一細胞内遺伝子発現の定量的1分子解析の方法論と、解析により得られる網羅的情報の統計的解析について詳しく解説する。

References
1. Taniguchi Y, Choi PJ, Li GW, Chen H, Babu M, Hearn J, Emili A, Xie XS. Quantifying E. coli proteome and transcriptome with single-molecule sensitivity in single cells. Science. 2010 Jul 30;329(5991):533-8. [5]

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