From Japanese society for quantitative biology

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Contents

動態と制御の定量生物学

講演者:
富田 太一郎(東京大学)
藤本 仰一(大阪大学)
上原 亮太(東京大学)、塚田祐基(名古屋大学)

日時
2013年11月23日 15:45-17:45 セッション2

Chair
寺前 順之介(大阪大学)、青木 一洋(京都大学)

概要

15:40-16:10 生体内MAPKシグナルによる環境応答情報のコーディング

  • 富田 太一郎(東京大学

 MAPK経路は酵母からヒトに至るほぼ全ての真核生物に高度に保存された環境応答のシグナル伝達機構です。この経路は細胞外からの様々な刺激に対して遺伝子発現や細胞の分化、増殖、細胞死といった適切な細胞応答を誘導することで生体の維持に働きます。MAPK分子の活性化メカニズムおよび制御機構に関しては詳細まで明らかにされてきており、細胞内MAPK活性化の動態やその制御機構を計算機上で予測することも可能になりつつあります。しかしながら、実際に生きた動物の体内のMAPK制御がどのようなものであるのかを理解することは非常に困難です。また、生体内の細胞の周囲の環境は様々な要因によって絶えず揺らいでいますが、そのような環境の中からどうやって細胞が意味のある環境変化を抽出して適切な細胞応答をひきおこすのかもよく分かっていません。  我々はFRETイメージングによって生きた線虫体内の一本の感覚神経の中のMAPK活性化を可視化するモデル実験系を構築してこの問題に取り組みました。特にシステム解析の手法を応用し、様々なパターンでパルス状の環境刺激を繰り返し動物に与え、その際のMAPK活性化動態(出力)をイメージングすることによって、この入出力関係からMAPK制御のシステム特性を調べました。  興味深いことに、MAPK活性を維持するためには刺激が多すぎても少なすぎてもだめで、最も強い応答は適切な頻度で繰り返し刺激された場合に生じていました。そこで、さらに計算機上のシミュレーションとイメージング解析を行い、この非線形の刺激-応答関係のメカニズムを解析したところ、一見複雑なMAPK動態は上流のカルシウムシグナルの特性によって説明されることが分かりました。一連のシグナル伝達経路が情報のフィルターとして機能して、揺らぎのある細胞外環境から応答すべき環境変化の情報を選択するメカニズムとして考えるとカルシウム-MAPKシグナルの応答特性は非常に合理的です。

 近年、めざましい-omics技術の進歩によって様々な分子間相互作用の存在が網羅的に明らかにされてきており、細胞内情報伝達のシステムレベルでの理解が進められています。しかしこれをそのまま生きた動物の細胞で生じている現象に適用することはまだ難しいのではないでしょうか?生体内の情報伝達のしくみを理解する為に今後どのような戦略が可能なのかを議論できればと思います。

16:10-16:40 細胞の集団的な意思決定の設計原理

  • 藤本 仰一(大阪大学)

動植物の組織中の細胞や微生物集団の多くは、環境中の栄養濃度や細胞密度などの情報を集団内で処理している。環境変化に対する細胞集団レベルの応答には、大きくわけて2種類が知られている。細胞ごとに内在する不均一性を抑えて集団全体が揃って応答する場合と、各細胞が不均一に応答しながらも応答する細胞の比率が細胞密度に依存して徐々に変化する場合である。どちらの場合も各細胞の生化学反応はスイッチ的に変化し、反応回路のトポロジーも同一であるにも拘らず、集団的な応答に違いを生む反応回路の特性はよくわかっていない。  私達は、バクテリアやアメーバ細胞の集団的な応答の定量的解析を通じて、フリーパラメータの無い定量的な数理モデルを構築してきた。各細胞が、細胞密度に依存してシグナル分子を合成し、細胞外に分泌することで細胞間コミュニケーションをする。このモデルを、我々は解析的、かつ、数値的に調べた。その結果、この2種類の集団的な応答を切り替える1つの無次元パラメータε を発見した。ε は、3つの実測可能な量(シグナル分子の分泌率、分解率、規格化された閾値濃度)の比で表される。複数の種のバクテリアのクオラムセンシング遺伝子回路で ε の値を推定すると、興味深いことに、双方の集団的応答が切り替わる境界に近かった。即ち、生存環境に応じて、双方の集団応答を選択的に利用するのに、これらのバクテリアは最適化されていることが示唆された。  加えて、細胞内に負のフィードバック反応回路があると、時間的な振動が生まれるが、この場合にも2種類の集団的な振る舞いを切り替えるパラメータは同一であった。これらの集団的意思決定の設計原理は、受容体かトランスポーターかといったシグナル入力の分子メカニズムにも依存しないロバストな原理であり、微生物だけでなく動植物の多細胞組織へも応用できる。このパラメータε を実験的に制御することにより、私たちは細胞集団の振る舞いを予測し、デザインし、構成的に理解できる。

16:40-17:10 細胞生物学的手法と数理モデルを用いた細胞質分裂制御の解析

  • 上原 亮太(東京大学)、塚田祐基(名古屋大学)

細胞を2つに分けるための染色体分配や細胞質分裂は、紡錘体や収縮環などの細胞装置によって担われる。近年、それらの装置の構成要素の実体(細胞骨格制御タンパク質や分子モーターなど)や、それらの因子が担う分子間相互作用(細胞骨格繊維の重合、脱重合制御や滑り運動など)について著しい知見の蓄積が見られる。一方で、ナノメートルオーダーで起こるそれらの微視的な分子間相互作用をもとにして、マイクロメートルオーダーの細胞装置のサイズや形状が決められ、その合目的的な運動や機能が実現する仕組みについては謎が多い。

本演題では、染色体分配と細胞質分裂の連携を担う細胞装置「中央紡錘体」の形態が、微小管脱重合反応の空間制御によって決定される仕組みについて報告する。我々は、微小管脱重合キネシンKif2Aが中央紡錘体微小管の脱重合に携わることを見つけ、その機能低下または亢進が中央紡錘体微小管の異常伸長または短縮を引き起こし、細胞質分裂の進行に重篤な障害をもたらすことを見出した。また、中央紡錘体の中央部に局在する分裂期キナーゼAurora Bによって形成されるリン酸化活性勾配によって、Kif2Aが中央紡錘体の中央部から排除され、中央紡錘体の両端に限定的に集積し、そこから微小管を脱重合することが分かった。さらに、実験および中央紡錘体の数理モデルによる理論的解析の両面から、Aurora B活性勾配依存的な微小管脱重合の空間調節が、中央紡錘体のサイズおよび対称性を保証することを明らかにした。

プレゼンテーションでは、細胞生物学および情報生物学を専門とする両演者が共同研究を進めていった経緯や、理論的解析の導入が実験生物学研究の推進に与えた影響に関しても触れたい。

参考文献:Uehara et al. Journal of Cell Biology 202:623-636, 2013

17:10-17:40 ディスカッション



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