From Japanese society for quantitative biology

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The 定量生物学 14:00-16:00

生細胞内タンパク質動態の包括的計測に基づいた細胞極性の数理モデル化(The PAR-2 asymmetry in polarized C. elegans embryos is stably maintained by it’s sub-components with short residence time on the cortex)

  • 荒田幸信(理化学研究所)http://www.riken.go.jp/cell-info/
  • 要旨:極性タンパク質の非対称局在は、化学反応の揺らぐ性質や発生過程における細胞環境の変化にも関わらず安定に維持される。PAR/aPKCシステムは進化的に保存された細胞極性システムである。PARタンパク質の非対称局在自体を説明する数理モデルは数多く報告されているが、実際の細胞内でどのようにして非対称局在が安定に維持されるかは分かっていない。我々は、1分子イメージングおよび蛍光相関分光法を組み合わせて、生きたC.elegans胚内での極性タンパク質PAR-2の動態を包括的に計測した。さらに、計測値を用い、すべての動態パラメーターを計測値により決定した数理モデルを構築し、非対称局在を再現することに成功した。この数理モデルを用いて、発生過程でも観察される細胞膜表層のPAR-2の密度揺らぎがどのように解消されるかを調べると、既存の数理モデルに基づいた予想とは異なり、細胞膜表層の密度揺らぎは「表層の拡散」よりもむしろ、直ちに細胞質に移行し「細胞質の拡散」により解消されることが分かった。1分子イメージングにより、このような細胞質への早い移行を担うPAR-2の成分が実際に存在し、この成分がおそらく高リン酸化状態・低重合度状態のPAR-2粒子であることを明らかにした。これらの結果から、この膜滞在時間の短い成分は、実際の細胞内で細胞質経由の揺らぎ解消メカニズムにより、非対称局在の安定性に貢献していると結論した。この膜滞在時間の短い成分は細胞膜上での拡散距離が短いため、実際のC.elegans初期胚で卵割によって生じるサイズの小さな極性化細胞での非対称局在を安定に維持するために有利である。以上のことから、細胞質経由でゆらぎを解消する機構は、反応揺らぎと発生における細胞サイズの縮小といった非対称局在を一様化し得る摂動に同時に対処するために有利な機構であると言える。また、同様の膜滞在時間の短い成分は他の生物種のさまざまな極性タンパク質にも存在することが報告されていることから、細胞質経由でゆらぎを解消する機構は、生物種を超えて細胞極性の安定性に貢献する一般的なメカニズムである可能性がある。

細胞の走化性にみられる時間空間認識機構の定量生物学的解析(A quantitative description of temporal and spatial sensing in eukaryotic chemotaxis)

  • 講演者:中島昭彦(東京大学)
  • 要旨:誘引物質の場を検知して目的の方向へと細胞が移動する走化性応答は、発生過程や傷害治癒の免疫反応、ガンの浸潤などさまざまな場面においてみられる普遍的細胞機能である。これまでに、定常な場における走化性メカニズムについて多くのことが明らかにされてきているが、一方で、組織中の誘引物質の場は大きなゆらぎをもち、時間的、空間的にダイナミックに振る舞うと考えられる。そのような場において、細胞が必要な情報を読み取り、向かうべき方向を知るメカニズムに関してはわかっていないことが多い。走化性研究のモデル系である細胞性粘菌は、細胞間シグナルの自己組織化によって形成される誘引物質cAMPの動的な進行波に向かうことで集合する。走化性シグナルとして働くcAMPの場は時間的にも空間的にも周期的なため、空間的な勾配の方向は一定ではない。にもかかわらず、実際の細胞はあたかも自らの進む方向を知っているかのように、波に向かって一方向に進むことができる。この問題は「走化性のパラドクス」と呼ばれ長い間理解されていなかった。このような背景のもと、我々は、微小流路によって時間的、空間的に動的な誘引場の形成を実現することにより、動的な場に対する走化性応答のふるまいを調べた。詳細な解析から、誘引物質の濃度が経時的に増加する場合にのみ、細胞は走化性運動を示し、走化性シグナル因子である低分子Gタンパク質Rasの活性化が引き起こされることをみいだした。実験結果をもとにした数理モデルの解析から、このような「整流作用」をもった走化性応答は、濃度変化に対する応答の反応機構に超感度性(ultra-sensitivity)が内在することで実現可能であることが明らかになった。このような細胞応答の動的特性は、多細胞組織のようなダイナミックに振る舞う環境中での細胞の情報処理や意思決定に重要な働きを示すと考えられ、ひいては、細胞運動の操作やガンの制御にもつながるものと期待される。
  • 参考文献:Nakajima A, Ishihara S, Imoto D, Sawai S. Rectified directional sensing in long-range cell migration. Nat Commun. 2014 Nov 6;5:5367

上皮メガ構造「偽重層化」における細胞集団の物流と力学(Cellular traffic and mechanics under pseudostratification as an epithelial megastructure)

  • 講演者:宮田卓樹(名古屋大学)
  • 要旨:発生中の脳原基にいる未分化な神経前駆細胞は,どんな分裂細胞にも共通する「2つの娘細胞をつくる」という基本業務を果たすうえで,独特の三次元環境・制約のもと,(1)脳原基壁を貫いて(脳室面 [apical面] から脳膜面 [basal面] までをつないで)細長く伸び(胎生中期までのマウスの場合100〜300 μm),(2)細長いからだの中で細胞周期進行に応じた両方向性の核移動(G1期にbasal向き,G2期にapical向きに核が動き,apical面で細胞分裂:interkinetic nuclear migration [INM]と称される)を行ない,(3)その寄せ集め・総和として「偽重層」(皆「体全体は端から端まで」なので本当は単層だが,核はあちこちの高さに散在し重層して見える)という組織様態を成立させている.偽重層化はどんな上皮にも認められるが,脳原基ではその度合いが最大である.とくに哺乳類大脳皮質原基の偽重層化は,他脳領域におけるよりも持続的であるとともに,系統発生軸上で規模を増す(マウス<フェレット<霊長類).偽重層化には「単位apical面あたりの細胞分裂頻度を増す(非分裂期局面の核を深部に配し apical面を分裂細胞に占有させる)」効能(「最前列で絶えず砲火が得られるよう火縄銃隊を3列組とする」との工夫 [長篠の戦い] に似た)がある.神経前駆細胞たちが「個々によるINM」をどう集団としてうまく「束ねて」いるのか知りたいと願い,私の研究室では,全細胞に対する(核および輪郭の)イメージングと平均二乗変位(mean-squared displacement)法による定量的解析,前駆細胞から「伸び」を奪う実験,組織内残留応力解放やAFMによる力学的計測,シミュレーションなどを組み合わせ,集団的INMのありようを「生態学」的あるいは「渋滞学・交通工学」的に研究している.これまでに,高度偽重層(上皮メガ化)に伴いそれぞれ増す「細胞産生(リターン)」と「混雑(リスク)」を折り合わせるために効率的・経済的な「物流」が重要(大都会においてそうであるように)と分かってきた.そして,集団的細胞挙動が力学要因の感知とそれへの反応を通じて果たされていそうだと読めてきた.

ショートトーク:アマガエルの数理 (Mathematical and Experimental Studies on Frog Choruses)

  • 講演者:合原一究(同志社大学)https://sites.google.com/site/ikkyuaihara/home
  • 要旨:春になり田んぼに水が入ると、アマガエルが集団で鳴き始める。このようなアマガエルの合唱は鹿児島県から北海道までの日本各地で観察でき、夏の夜の風物詩と言える。アマガエルは単独では強い周期性を持って鳴く一方で、鼓膜を備えており他のアマガエルの鳴き声を認識できる。そのため複数個体の鳴き交わしは、周期的に振る舞う素子が相互作用する結合振動子系として理解できるだろう。本セミナーでは、アマガエルの合唱を結合振動子系と捉えた数理研究と、室内および野外での発声行動を調べた実験研究を紹介する。
  • 参考文献:I.Aihara et al., Scientific Reports, 4:3891 (2014).

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