Difference between revisions of "第六回年会セッション2"

From Japanese society for quantitative biology
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=== 細胞生物学的手法と数理モデルを用いた細胞質分裂制御の解析 ===
 
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*上原 亮太(東京大学)、塚田祐基(名古屋大学)<br>
 
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細胞を2つに分けるための染色体分配や細胞質分裂は、紡錘体や収縮環などの細胞装置によって担われる。近年、それらの装置の構成要素の実体(細胞骨格制御タンパク質や分子モーターなど)や、それらの因子が担う分子間相互作用(細胞骨格繊維の重合、脱重合制御や滑り運動など)について著しい知見の蓄積が見られる。一方で、ナノメートルオーダーで起こるそれらの微視的な分子間相互作用をもとにして、マイクロメートルオーダーの細胞装置のサイズや形状が決められ、その合目的的な運動や機能が実現する仕組みについては謎が多い。
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本演題では、染色体分配と細胞質分裂の連携を担う細胞装置「中央紡錘体」の形態が、微小管脱重合反応の空間制御によって決定される仕組みについて報告する。我々は、微小管脱重合キネシンKif2Aが中央紡錘体微小管の脱重合に携わることを見つけ、その機能低下または亢進が中央紡錘体微小管の異常伸長または短縮を引き起こし、細胞質分裂の進行に重篤な障害をもたらすことを見出した。また、中央紡錘体の中央部に局在する分裂期キナーゼAurora Bによって形成されるリン酸化活性勾配によって、Kif2Aが中央紡錘体の中央部から排除され、中央紡錘体の両端に限定的に集積し、そこから微小管を脱重合することが分かった。さらに、実験および中央紡錘体の数理モデルによる理論的解析の両面から、Aurora B活性勾配依存的な微小管脱重合の空間調節が、中央紡錘体のサイズおよび対称性を保証することを明らかにした。
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プレゼンテーションでは、細胞生物学および情報生物学を専門とする両演者が共同研究を進めていった経緯や、理論的解析の導入が実験生物学研究の推進に与えた影響に関しても触れたい。
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参考文献:Uehara et al. Journal of Cell Biology 202:623-636, 2013<br>
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Revision as of 19:27, 29 August 2013

動態と制御の定量生物学

講演者:
富田 太一郎(東京大学)
藤本 仰一(大阪大学)
上原 亮太(東京大学)、塚田祐基(名古屋大学)

日時
2013年11月23日 15:45-17:45 セッション2

Chair
寺前 順之介(大阪大学)、青木 一洋(京都大学)

概要

生体内MAPKシグナルによる環境応答情報のコーディング

  • 富田 太一郎(東京大学

 MAPK経路は酵母からヒトに至るほぼ全ての真核生物に高度に保存された環境応答のシグナル伝達機構です。この経路は細胞外からの様々な刺激に対して遺伝子発現や細胞の分化、増殖、細胞死といった適切な細胞応答を誘導することで生体の維持に働きます。MAPK分子の活性化メカニズムおよび制御機構に関しては詳細まで明らかにされてきており、細胞内MAPK活性化の動態やその制御機構を計算機上で予測することも可能になりつつあります。しかしながら、実際に生きた動物の体内のMAPK制御がどのようなものであるのかを理解することは非常に困難です。また、生体内の細胞の周囲の環境は様々な要因によって絶えず揺らいでいますが、そのような環境の中からどうやって細胞が意味のある環境変化を抽出して適切な細胞応答をひきおこすのかもよく分かっていません。  我々はFRETイメージングによって生きた線虫体内の一本の感覚神経の中のMAPK活性化を可視化するモデル実験系を構築してこの問題に取り組みました。特にシステム解析の手法を応用し、様々なパターンでパルス状の環境刺激を繰り返し動物に与え、その際のMAPK活性化動態(出力)をイメージングすることによって、この入出力関係からMAPK制御のシステム特性を調べました。  興味深いことに、MAPK活性を維持するためには刺激が多すぎても少なすぎてもだめで、最も強い応答は適切な頻度で繰り返し刺激された場合に生じていました。そこで、さらに計算機上のシミュレーションとイメージング解析を行い、この非線形の刺激-応答関係のメカニズムを解析したところ、一見複雑なMAPK動態は上流のカルシウムシグナルの特性によって説明されることが分かりました。一連のシグナル伝達経路が情報のフィルターとして機能して、揺らぎのある細胞外環境から応答すべき環境変化の情報を選択するメカニズムとして考えるとカルシウム-MAPKシグナルの応答特性は非常に合理的です。

 近年、めざましい-omics技術の進歩によって様々な分子間相互作用の存在が網羅的に明らかにされてきており、細胞内情報伝達のシステムレベルでの理解が進められています。しかしこれをそのまま生きた動物の細胞で生じている現象に適用することはまだ難しいのではないでしょうか?生体内の情報伝達のしくみを理解する為に今後どのような戦略が可能なのかを議論できればと思います。

細胞の集団的な意思決定の設計原理

  • 藤本 仰一(大阪大学)


細胞生物学的手法と数理モデルを用いた細胞質分裂制御の解析

  • 上原 亮太(東京大学)、塚田祐基(名古屋大学)

細胞を2つに分けるための染色体分配や細胞質分裂は、紡錘体や収縮環などの細胞装置によって担われる。近年、それらの装置の構成要素の実体(細胞骨格制御タンパク質や分子モーターなど)や、それらの因子が担う分子間相互作用(細胞骨格繊維の重合、脱重合制御や滑り運動など)について著しい知見の蓄積が見られる。一方で、ナノメートルオーダーで起こるそれらの微視的な分子間相互作用をもとにして、マイクロメートルオーダーの細胞装置のサイズや形状が決められ、その合目的的な運動や機能が実現する仕組みについては謎が多い。

本演題では、染色体分配と細胞質分裂の連携を担う細胞装置「中央紡錘体」の形態が、微小管脱重合反応の空間制御によって決定される仕組みについて報告する。我々は、微小管脱重合キネシンKif2Aが中央紡錘体微小管の脱重合に携わることを見つけ、その機能低下または亢進が中央紡錘体微小管の異常伸長または短縮を引き起こし、細胞質分裂の進行に重篤な障害をもたらすことを見出した。また、中央紡錘体の中央部に局在する分裂期キナーゼAurora Bによって形成されるリン酸化活性勾配によって、Kif2Aが中央紡錘体の中央部から排除され、中央紡錘体の両端に限定的に集積し、そこから微小管を脱重合することが分かった。さらに、実験および中央紡錘体の数理モデルによる理論的解析の両面から、Aurora B活性勾配依存的な微小管脱重合の空間調節が、中央紡錘体のサイズおよび対称性を保証することを明らかにした。

プレゼンテーションでは、細胞生物学および情報生物学を専門とする両演者が共同研究を進めていった経緯や、理論的解析の導入が実験生物学研究の推進に与えた影響に関しても触れたい。

参考文献:Uehara et al. Journal of Cell Biology 202:623-636, 2013

ディスカッション



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