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==統計的時系列解析が明らかにする生命ダイナミクス(仮)==
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==統計的時系列解析が明らかにする生命ダイナミクス==
講演者: 廣島 通夫(RIKEN・QBiC)、近藤 洋平(東京大学総合文化研究科)、大森 敏明(神戸大学大学院工学研究科)
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講演者: <br>
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廣島 通夫(理研QBiC)<br>
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[http://www2.kobe-u.ac.jp/~omoritos/ 大森 敏明](神戸大学大学院工学研究科)<br>
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近藤 洋平(東京大学総合文化研究科)<br>
 
===日時===
 
===日時===
TBA
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2012年11月24日 15:45-17:15 セッション2
  
 
=== Chair===
 
=== Chair===
TBA
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石原秀至(東京大学)
  
 
=== 概要 ===
 
=== 概要 ===
  
===人工RNAスイッチによる自律的な細胞運命制御システムの構築に向けて===
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===ErbB受容体の反応調節機構の1分子解析===
* 斉藤 博英 (京都大学白眉)
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* 廣島 通夫(RIKEN・QBiC)
 
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 細胞内状態に応じた精密な遺伝子操作の技術を確立し、様々な標的細胞の運命を自律的に制御するための基盤技術を創出することは、重要な課題である。シンセティックバイオロジー分野の進展により、これまでに様々な人工遺伝子回路が設計され、細胞内シグナルを制御することを目指す多くのモデル研究が進展している。しかしながら、設計された回路は細胞内で目的の挙動を示さない場合も多い。また、回路を構築するための「分子パーツ」の数には限りがあり、その傾向は特に哺乳類細胞において顕著である。回路構築の基本素子となる生体分子を分子デザインにより創出し、かつ生体分子間相互作用を自在にエンジニアリングできれば、より高度で洗練されたシステムの構築が期待できる。
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 細胞膜受容体であるErbBファミリータンパク質は、細胞外シグナルを細胞内に伝える際に、会合体形成を通じてシグナル伝達の調節をおこなうことが示唆されている。この調節メカニズムを詳細に調べるため、我々はErbBの細胞膜上での動態や、細胞内シグナル分子との相互作用、リガンドとの反応キネティクスについて、1分子計測を用いた研究を進めている。
  
 我々は、人工システム構築の重要な分子パーツとして、RNAおよびRNA-タンパク質 (RNP)相互作用に着目し、人工RNA/RNPによる新しい遺伝子操作技術の開発を進めている。具体的には、哺乳類細胞内シグナルを制御できる人工RNAや RNP の分子デザイン法を開発した。この方法を活用し、細胞内で発現する特定のタンパク質を検知し、mRNA からの目的遺伝子の翻訳を自在にON/OFF制御し、かつその生死を決定できる「人工 RNA スイッチ」の開発に成功した。この方法を様々な入力因子に応答するように拡張できれば、細胞内部状態の様々な変化に応じて、自律的に目的遺伝子の発現をON/OFF制御できるシステムの構築へとつながるだろう。
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 1分子計測によって、多くの場合、個々の分子の位置や輝度の情報を含む時系列データが得られる。しかし解析手法の限界から、大抵においてこれら空間や時間に関する情報を失うような統計処理に頼らざるを得なかった。細胞での分子反応には局所的あるいは段階的に調節を受けるものも存在するため、データに含まれる情報を損なわず、いかに有効に活用できるかが重要となる。
  
 さらに、mRNA とタンパク質の相互作用を基盤とする負の翻訳フィードバック回路を人工的に設計・構築することに成功した。 細胞内でのRNP親和性を測定することで、単純な数理モデルを元に、細胞内でのタンパク質発現の挙動を定性的に予測できることがわかった。このように、「RNPパーツ」の生化学的解析データを元に人工回路を設計・構築できるため、より精度の高い人工回路の構築が期待できる。
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 GFPを融合させたErbB1の動態を細胞膜上で1分子計測することで、輝点位置と蛍光強度の時系列データが得られる。拡散の解析において通常計算されるMSD(平均二乗距離)は分子の平均的挙動の時間発展を表すため、各時刻における分子の位置情報は反映されず、さらに運動の性質が中途で変化する場合は誤差が多くなる。そこで本研究では、時系列データに隠れマルコフモデルを適用し[1]、輝点軌跡から運動状態を、蛍光強度から会合体サイズを時々刻々推定することで、各々の分子が、いつ、どこで、どのような状態にあるかを特定できるようにした。さらに、下流シグナル分子との相互作用についても二波長を用いた1分子計測をおこない、同様の手法によって解析した。これらの結果から、ErbB1の滞在領域や会合体形成が、分子間反応と密接に関連することが示された。
  
 より複雑な細胞運命の理解・制御のためには、数理モデル・シミュレーションを活用し、細胞内で目的の機能を実現する人工システムを設計することが必須となると考えられる。その設計戦略と人工RNAシステムの今後の可能性について議論したい。
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 一方、ErbBと蛍光リガンドとの結合および解離を1分子計測し、それぞれのレートを算出するとともに、反応機構のモデルを構築した。モデルから、単量体や二量体のErbBと結合するリガンド分子数によって3種類の結合親和性が現れること、二個目のリガンドが結合した二量体では速やかなキネティクスの変化が生ずることが示唆された[2]。これらの機構は細胞が、リガンド濃度の変化に感度良く、素早く応答することに役立つと考えられる。
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 本講演では、1分子計測で得られた結果を、新たな解析手法や反応機構モデルと組み合わせることで新たに見えてきた、ErbBによる細胞シグナル伝達の反応調節機構について詳述する。
 
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'''参考文献''':<br>
 
'''参考文献''':<br>
1.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20016495<br>
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[1] Low-Nam S., Lidke K., Cutler P., Roovers R., van Bergen en Henegouwen P., Wilson B., Lidke D.
2.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21240283<br>
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ErbB1 dimerization is promoted by domain co-confinement and stabilized by ligand binding.
3.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21245841<br>
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Nature Str. Mol. Biol. 2011;18(11):1244-1250.<br>
4.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22810207<br>
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[2] '''Hiroshima M'''., Saeki Y., Okada-Hatakeyama M., Sako Y.
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Dynamically varying interactions between heregulin and ErbB proteins detected by single-molecule analysis in living cells.
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Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2012;109(35):13984-13989.<br>
 
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===自発駆動する微小管が生み出す巨大な渦構造===
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===樹状突起膜電位の時空間ダイナミクスを統計的に推定する<br>~ベイズ統計に基づく情報抽出~===
* 住野 豊(愛知教育大学)
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*大森 敏明(神戸大学大学院工学研究科)
 
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 自ら動きまわる能動的な要素の集合体は,動物の群れや細胞の集合体など,様々なスケールで我々の身近に存在している.このような集合体は,熱平衡状態で熱的に揺らぐ受動的な要素の集合体と異なり,平衡統計力学での記述はできない.しかしながら,群れ運動の様子などに着目すると共通の枠組みでの理解を示唆させる振る舞いが見うけられる.そこでこれら自ら動き回る能動的な要素の集合体を“Active Matter”[1]と称し,統一的に理解しようとする試みが盛んとなっている.
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 近年,樹状突起における活動電位や樹状突起を逆伝播する信号など,樹状突起上での多彩な時空間応答が観測され,これまで考えられてきた以上に,樹状突起における膜電位の時空間ダイナミクスが,脳情報処理に対して重要な役割を担うものとして,実験・理論の両側面からの強い注目を集めつつある(Spruston, 2008).本発表では,イメージング計測により得られる時空間データから樹状突起時空間ダイナミクスの推定を実現するために構築した統計的アルゴリズムを紹介する.雑音が重畳されるイメージングデータから,樹状突起における膜電位の時空間ダイナミクスを抽出にする上で,膜電位の時空間応答のみならず,その背後にある電気特性などの複数のパラメータを推定する必要がある.本研究では,マルチコンパートメントモデルと呼ばれる分布定数系の電気回路を用いて樹状突起膜電位の時空間ダイナミクスを記述することにより状態空間モデルを構成し,雑音が重畳された時空間データから膜電位の時空間応答や膜特性などの電気特性の空間分布の同時推定を行う枠組みを提案する.近年,樹状突起における電気特性が空間的に不均一に分布することが実験と理論の融合研究により示されており,例えば,海馬CA1錐体細胞の膜抵抗は樹状突起上で空間的に区画化されていることが示唆されている(Omori et al., 2006, 2009).本発表では,提案法により,電気特性が不均一に分布する場合でも雑音が重畳されたデータから膜特性の空間分布が推定可能であることを示すともに,樹状突起において空間的に部分的に観測値が与えられた場合に,より高い解像度で樹状突起膜電位の時空間ダイナミクスが推定可能であることを示す結果を紹介する.
 
 
 このような背景の下,我々は運動する要素として基板上に吸着した分子モーターであるダイニンにより駆動される10 μm程度の微小管に着目し,微小管の集団挙動を観察した[2].すると,ATPを注入し微小管の運動を始めたばかりでは構造が見られないが,徐々に微小管が集合・配列を始め,最終的に400μm程度の巨大な渦構造を形成した.この渦は10 mm程度もある基板上を全て覆いつくしており格子を形成していた.また単一の渦内部の微小管の向きは双方向であった.この集団挙動を理解するためまず微小管間の相互作用を観察した.本系では,微小管同士の1対1衝突が観察でき,衝突前は相互作用が見られず,衝突時に排除体積の効果により運動の向きが平行か反平行に揃うことが見出された.つまり微小管同士は局所的なネマチック相互作用を示すことが見出された.更に孤立した周りと相互作用しない微小管の運動特性を軌跡から解析した.すると,微小管の軌跡は曲率に長時間の相関をもつことが見出された.これら実験結果より短距離のネマチック相互作用と,運動方向変化に対する相関をもつ揺らぎを取り入れ,短距離相互作用する自走粒子のモデルであるVicsekモデル[3,4]の拡張を行った.このモデルを用い,実験で測定した実験系の値から得られるパラメータを用いて数値計算を行うと渦格子の生成が再現された.
 
 
 
 以上の結果は,局所的で単純な衝突相互作用であっても,運動方向の揺らぎの有限時間相関により結晶のような周期構造を生み出す点で興味深い.また,方程式の上では相関のある運動方向の揺らぎは時間的に緩和する粒子の内部状態と考えることもできる.これは,より一般的な系,つまり動物集団や人間集団の集団運動を考える上で内部状態の取り扱いの一手法としても興味深いと考えられる.
 
 
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'''参考文献''':<br>
 
'''参考文献''':<br>
[1] S. Ramaswamy, "The mechanics and statistics of active matter," Ann. Rev. Cond. Matt. Phys. 1, 323-345 (2010).<br>
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[1]N. Spruston. <i>Pyramidal Neurons: Dendritic Structure and Synaptic Integration</i> Nature Rev. Neurosci. (2008) 9, 206.<br>
[2] Y. Sumino, K. H. Nagai, Y. Shtaka, D. Tanaka, K. Yoshiakwa, H. Chaté, and K. Oiwa, ."Large-scale vortex lattice emerging from collectively moving microtubules, " Nature 483, 448-452 (2012). http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22437613<br>
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[2] '''T. Omori''', T. Aonishi, H. Miyakawa, M. Inoue, and M. Okada. <i>Estimated Distribution of Specific Membrane Resistance in Hippocampal CA1 Pyramidal Neuron</i>Brain Res. (2006) 1125, 199<br>
[3] T. Vicsek, A. Czirók, E. Ben-Jacob, I. Cohen, and O. Schochet, "Novel type of phase transition in a system of self-driven particles," Phys. Rev. Lett. 75, 1226-1229 (1995). http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10060237<br>
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[3] '''T. Omori''', T. Aonishi, H. Miyakawa, M. Inoue, and M. Okada. <i>Steep Decrease in the Specific Membrane Resistance in the Apical Dendrites of Hippocampal CA1 Pyramidal Neurons</i>Neurosci. Res. (2009) 64, 83<br>
[4] G. Grégoire and H. Chaté "Onset of Collective and Cohesive Motion" Phys. Rev. Lett. 92, 025702 (2004). http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14753946<br>
 
 
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===TBA===
 
*前多 裕介(京都大学白眉)
 
 
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===細胞間フィードバック回路を用いたパターンの作製===
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===一細胞時系列に基づくメカニズ厶の抽出と再構成===
*松田 充弘(京大・生命学研究科)
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* 近藤 洋平(東京大学総合文化研究科)
 
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 近年、生物機能を構成的に理解しようという取り組みが盛んになってきています。そこで私たちは、多細胞生物にみられる様々な細胞のパターンに着目し、それがどのようにして実現されているのかといった問題に、細胞内に遺伝子回路を作製しパターンを再現することで取り組んでいます。
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 近年の生細胞イメージング技術は細胞が示すダイナミクスを高い時空間分解能の元で明らかにしつつある。それに伴い、数理モデルによるダイナミクスの解析の重要性が大きくなっている。しかし多くの場合に、システムのノイズや強い非線形性、観測できない変数の存在といった問題が信頼できるモデルの構築を阻んでいる。この問題に対処するために我々は、統計的機械学習に基づいたモデル推定手法を提案する。モデルとして確率微分方程式、データとして一細胞時系列を用いるため、ダイナミクスのノイズに内在する情報をも活用することができる。特に本研究では、低次元のモデルを用いて学習することで、対称性や分岐構造といった観測されたダイナミクスを説明する数理モデルがもつべき基本的性質を抽出することを目指す。
 
 
 今回私たちは、Delta/Notchシグナル伝達経路を利用して、接着依存的な細胞間ポジティブフィードバック回路を細胞内に組み立てることで、細胞集団における空間的なシグナル伝播パターンを生み出しました。これは隣接した細胞のDeltaによって活性化されたNotchの下でDeltaの発現が誘導され、そのDeltaが隣の細胞にシグナルを伝えることでDeltaの発現が伝播していくものです。シグナルの伝播には、そのシグナル伝達の高いヒル係数と十分な増幅が必要であると予想されました。そこで数理モデルとシミュレーションを参考にして、Delta/Notchシグナルを増幅するために転写カスケードを2段階にし、Notchの正の制御因子であるLunatic fringeを用いたところ、この遺伝子回路が組み込まれた細胞でシグナル伝播パターンが見られました。またさらなるシミュレーション解析から、細胞集団における双安定性とシグナル伝播の実現条件は同じであることがわかりました。これらの結果は細胞間ポジティブフィードバックが、シグナル伝播パターンと細胞集団における双安定性の実現に十分であることを示しています。
 
  
 現在私たちは、別の細胞間ポジティブフィードバックを用いた側方抑制パターンの作製に取り組んでおり、あわせて発表できればと考えています。また生物にみられる様々なパターンがどのようにしてできるかについて議論したいです。
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 人工データを用いて提案した手法の有効性を確認した後、社会性アメーバ(<i>Dictyostelium discoideum</i>) の細胞間シグナル伝達系を解析した。学習の結果、シグナル伝達を担っているcyclic AMP分子の細胞質における濃度ダイナミクスを精度よく記述するモデルが得られた。さらに学習したモデルを細胞間相互作用を考慮した上で多数結合することによって、多細胞レベルで観測される時空間パターンをも再現できることが明らかになった。この結合モデルの解析によって、多細胞ダイナミクスの生成メカニズ厶について学習モデルに基づいた一細胞レベルからの説明を与えることができた。本発表では解析手法とその応用研究の進展について、併せて報告したい。
 
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'''参考文献''':<br>
 
'''参考文献''':<br>
Matsuda M, Koga M, Nishida E, Ebisuya M.
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'''Y. Kondo''', K. Kaneko, S. Ishihara, ''Identifying dynamical systems with bifurcations from noisy partial observation''
Synthetic signal propagation through direct cell-cell interaction.
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[http://arxiv.org/abs/1208.4660]
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22510469
 
 
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Latest revision as of 09:30, 24 October 2012

統計的時系列解析が明らかにする生命ダイナミクス

講演者:
廣島 通夫(理研QBiC)
大森 敏明(神戸大学大学院工学研究科)
近藤 洋平(東京大学総合文化研究科)

日時

2012年11月24日 15:45-17:15 セッション2

Chair

石原秀至(東京大学)

概要

ErbB受容体の反応調節機構の1分子解析

  • 廣島 通夫(RIKEN・QBiC)


 細胞膜受容体であるErbBファミリータンパク質は、細胞外シグナルを細胞内に伝える際に、会合体形成を通じてシグナル伝達の調節をおこなうことが示唆されている。この調節メカニズムを詳細に調べるため、我々はErbBの細胞膜上での動態や、細胞内シグナル分子との相互作用、リガンドとの反応キネティクスについて、1分子計測を用いた研究を進めている。

 1分子計測によって、多くの場合、個々の分子の位置や輝度の情報を含む時系列データが得られる。しかし解析手法の限界から、大抵においてこれら空間や時間に関する情報を失うような統計処理に頼らざるを得なかった。細胞での分子反応には局所的あるいは段階的に調節を受けるものも存在するため、データに含まれる情報を損なわず、いかに有効に活用できるかが重要となる。

 GFPを融合させたErbB1の動態を細胞膜上で1分子計測することで、輝点位置と蛍光強度の時系列データが得られる。拡散の解析において通常計算されるMSD(平均二乗距離)は分子の平均的挙動の時間発展を表すため、各時刻における分子の位置情報は反映されず、さらに運動の性質が中途で変化する場合は誤差が多くなる。そこで本研究では、時系列データに隠れマルコフモデルを適用し[1]、輝点軌跡から運動状態を、蛍光強度から会合体サイズを時々刻々推定することで、各々の分子が、いつ、どこで、どのような状態にあるかを特定できるようにした。さらに、下流シグナル分子との相互作用についても二波長を用いた1分子計測をおこない、同様の手法によって解析した。これらの結果から、ErbB1の滞在領域や会合体形成が、分子間反応と密接に関連することが示された。

 一方、ErbBと蛍光リガンドとの結合および解離を1分子計測し、それぞれのレートを算出するとともに、反応機構のモデルを構築した。モデルから、単量体や二量体のErbBと結合するリガンド分子数によって3種類の結合親和性が現れること、二個目のリガンドが結合した二量体では速やかなキネティクスの変化が生ずることが示唆された[2]。これらの機構は細胞が、リガンド濃度の変化に感度良く、素早く応答することに役立つと考えられる。

 本講演では、1分子計測で得られた結果を、新たな解析手法や反応機構モデルと組み合わせることで新たに見えてきた、ErbBによる細胞シグナル伝達の反応調節機構について詳述する。

参考文献
[1] Low-Nam S., Lidke K., Cutler P., Roovers R., van Bergen en Henegouwen P., Wilson B., Lidke D. ErbB1 dimerization is promoted by domain co-confinement and stabilized by ligand binding. Nature Str. Mol. Biol. 2011;18(11):1244-1250.
[2] Hiroshima M., Saeki Y., Okada-Hatakeyama M., Sako Y. Dynamically varying interactions between heregulin and ErbB proteins detected by single-molecule analysis in living cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2012;109(35):13984-13989.


樹状突起膜電位の時空間ダイナミクスを統計的に推定する
~ベイズ統計に基づく情報抽出~

  • 大森 敏明(神戸大学大学院工学研究科)


 近年,樹状突起における活動電位や樹状突起を逆伝播する信号など,樹状突起上での多彩な時空間応答が観測され,これまで考えられてきた以上に,樹状突起における膜電位の時空間ダイナミクスが,脳情報処理に対して重要な役割を担うものとして,実験・理論の両側面からの強い注目を集めつつある(Spruston, 2008).本発表では,イメージング計測により得られる時空間データから樹状突起時空間ダイナミクスの推定を実現するために構築した統計的アルゴリズムを紹介する.雑音が重畳されるイメージングデータから,樹状突起における膜電位の時空間ダイナミクスを抽出にする上で,膜電位の時空間応答のみならず,その背後にある電気特性などの複数のパラメータを推定する必要がある.本研究では,マルチコンパートメントモデルと呼ばれる分布定数系の電気回路を用いて樹状突起膜電位の時空間ダイナミクスを記述することにより状態空間モデルを構成し,雑音が重畳された時空間データから膜電位の時空間応答や膜特性などの電気特性の空間分布の同時推定を行う枠組みを提案する.近年,樹状突起における電気特性が空間的に不均一に分布することが実験と理論の融合研究により示されており,例えば,海馬CA1錐体細胞の膜抵抗は樹状突起上で空間的に区画化されていることが示唆されている(Omori et al., 2006, 2009).本発表では,提案法により,電気特性が不均一に分布する場合でも雑音が重畳されたデータから膜特性の空間分布が推定可能であることを示すともに,樹状突起において空間的に部分的に観測値が与えられた場合に,より高い解像度で樹状突起膜電位の時空間ダイナミクスが推定可能であることを示す結果を紹介する.

参考文献
[1]N. Spruston. Pyramidal Neurons: Dendritic Structure and Synaptic Integration Nature Rev. Neurosci. (2008) 9, 206.
[2] T. Omori, T. Aonishi, H. Miyakawa, M. Inoue, and M. Okada. Estimated Distribution of Specific Membrane Resistance in Hippocampal CA1 Pyramidal NeuronBrain Res. (2006) 1125, 199
[3] T. Omori, T. Aonishi, H. Miyakawa, M. Inoue, and M. Okada. Steep Decrease in the Specific Membrane Resistance in the Apical Dendrites of Hippocampal CA1 Pyramidal NeuronsNeurosci. Res. (2009) 64, 83


一細胞時系列に基づくメカニズ厶の抽出と再構成

  • 近藤 洋平(東京大学総合文化研究科)


 近年の生細胞イメージング技術は細胞が示すダイナミクスを高い時空間分解能の元で明らかにしつつある。それに伴い、数理モデルによるダイナミクスの解析の重要性が大きくなっている。しかし多くの場合に、システムのノイズや強い非線形性、観測できない変数の存在といった問題が信頼できるモデルの構築を阻んでいる。この問題に対処するために我々は、統計的機械学習に基づいたモデル推定手法を提案する。モデルとして確率微分方程式、データとして一細胞時系列を用いるため、ダイナミクスのノイズに内在する情報をも活用することができる。特に本研究では、低次元のモデルを用いて学習することで、対称性や分岐構造といった観測されたダイナミクスを説明する数理モデルがもつべき基本的性質を抽出することを目指す。

 人工データを用いて提案した手法の有効性を確認した後、社会性アメーバ(Dictyostelium discoideum) の細胞間シグナル伝達系を解析した。学習の結果、シグナル伝達を担っているcyclic AMP分子の細胞質における濃度ダイナミクスを精度よく記述するモデルが得られた。さらに学習したモデルを細胞間相互作用を考慮した上で多数結合することによって、多細胞レベルで観測される時空間パターンをも再現できることが明らかになった。この結合モデルの解析によって、多細胞ダイナミクスの生成メカニズ厶について学習モデルに基づいた一細胞レベルからの説明を与えることができた。本発表では解析手法とその応用研究の進展について、併せて報告したい。

参考文献
Y. Kondo, K. Kaneko, S. Ishihara, Identifying dynamical systems with bifurcations from noisy partial observation [1]


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