From Japanese society for quantitative biology

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Contents

生命現象のロバストネス

講演者:
猪股 秀彦(理研CDB)
木賀 大介(東京工業大学大学院 総合理工学研究科)
畠山 哲央(東京大学大学院 総合文化研究科)
北島 智也(理研CDB)

日時

2012年11月25日 14:00-16:00 セッション4

Chair

TBA

概要

動物胚の相似性を保証する発生場スケーリングの制御機序

  • 猪股 秀彦(理研CDB)


 脊椎動物の初期発生は、背腹軸に沿ったパターン形成が中心的な役割を果たす。複雑なパターン形成は、モルフォゲン(濃度依存的に異なる種類の細胞分化を誘導する分泌因子)の濃度勾配が軸に沿って形成されることから始まる。背腹軸形成においては胚の中に一つの背側領域が誘導され、背側から分泌されるオーガナイザー因子の濃度勾配に従って背側•側方•腹側の異なる3種類の「局所」パターンを形成する。

 一方、胚「全体」の大きさは多様性に富み、アフリカツメガエルなど同一種間でも卵のサイズにばらつき(直径1mm〜1.5mm)が存在する。もし、オーガナイザー因子が形成する濃度勾配が一定であるならば、形成される背腹パターンは胚のサイズに強く影響されるはずである。しかし、実際にはサイズに適合した相似パターンを形成する事が知られている。さらに、両生類胚を背側と腹側に半割にすると、半割背側胚からは腹側を含む半分のサイズの個体が発生する。つまり、両生類胚は濃度勾配を自己調節し、胚「全体」のサイズに応じて「局所」パターンを適切に拡大•縮小する制御システム(スケーリング)を保持している事を示している。

 本研究では、スケーリングが保証される機序を実際の胚の発生場を用いて定量的・構成論的に解析する事を目指している。特に、(1)胚のサイズはどのようにして分子の言葉に翻訳されるのか、(2)どのような構造(ネットワーク)がスケーリングを保証するのか、に焦点を当てて報告したいと考えている。

参考文献
Inomata H, Haraguchi T, Sasai Y., Robust stability of the embryonic axial pattern requires a secreted scaffold for chordin degradation., Cell. 2008 Sep 5;134(5):854-65. [1]

数理モデルと定量結果とに基づいた
人工遺伝子回路の改善サイクル

  • 木賀 大介(東京工業大学大学院 総合理工学研究科)


 細胞分化過程での運命決定は、理論的には、各細胞が複数ある安定状態からいずれかを選択する多安定系として理解できる。双安定系でも、系を記述する微分方程式から求まるヌルクラインを描くことでこの安定状態が求まる。また、相互抑制のネットワークを作成することで、細胞に双安定系を導入することができることも知られている。本発表では、ヌルクラインの変形を基盤としてデザインされた2つの人工遺伝子回路のいずれかを導入された細胞の挙動を、それぞれ紹介する。どちらの回路でも、ヌルクラインの変形が、平衡点の位置と数とを変化させる。

 第1の回路は、双安定性トグルスイッチと、細胞間通信の組み合わせによって構築された。この回路では、通信によってヌルクラインが平面上で一方向に拡大される。その結果、この回路を持つ大腸菌は、あたかもWaddington地形の上を転がる玉のように、自律的に多様化した。この構築過程では、期待通りの挙動を示さない回路に対して、数理モデルの示す修正を加えていくことが重要であった。

 第2の回路は、双安定性トグルスイッチと、この回路を構成するリプレッサーを大量発現させる系とを組み合わせて構築された。片方のリプレッサーの大量発現は、対応するヌルクラインが軸切片を変化させながらもう片方の軸に対して平行移動することに相当する。その結果、適切な発現量調節によって、双安定から単安定への分岐が生じ、また、この唯一の安定平衡点の位置を調節することもできことが予想できる。調節の結果、誘導時の唯一の安定平衡点の位置が、誘導前のセパラトリクス上に存在するならば、細胞集団が誘導によって状態を変化させた後、誘導解除後に2つの集団に多様化することが予想される。そこで、この回路を持った大腸菌を作成したところ、大量発現を起こす誘導材の添加と除去によって、大量発現前にもともと1山の分布であった細胞集団から、大量発現による分布の移動を経て、誘導を除去した後に2山の細胞集団を作成することができた。大量発現によるこの細胞の挙動は、iPS細胞の作成手順と合わせて考えると興味深い。

参考文献
Sekine R, Yamamura M, Ayukawa S, Ishimatsu K, Akama S, Takinoue M, Hagiya M, Kiga D., Tunable synthetic phenotypic diversification on Waddington's landscape through autonomous signaling. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Nov 1;108(44):17969-73.

Enzyme-limited completionによる生化学振動子の周期の温度補償性

  • 畠山 哲央(東京大学大学院 総合文化研究科)


 化学反応速度は、一般に温度に強く依存するため、温度の上昇に伴い化学振動の周期は短くなる。例えば、Belousov-Zhabotinsky反応においては、10℃の温度上昇で、その周期は約二分の一となる。一方で、概日リズムの周期は、様々な生物種でその分子機構が大きく異なるにもかかわらず、周期が温度変化に対して頑健である、つまり周期の温度補償性があることが知られている。そのメカニズムを知る事は、概日時計研究に於いては勿論、生物学全体にとって重要な課題である。

 近年の生化学的な実験により、概日時計を構成する一部の酵素の回転数が温度に殆ど依存しない事が知られている。これを受け、概日時計において全ての素過程がelement-levelで温度非依存的であり、周期が温度補償されているのではないか、という仮説が提案されている。だが、実際の概日時計では周期は温度補償されているものの、その位相は温度変化によりリセットされ、またその振幅は温度に応じて大きく変化する。上述のelement-levelの温度補償性だけでは、これらの事実を説明できない。従って、system-levelの新たな温度補償性メカニズムが、現在求められている。

 そこで、本研究ではsystem-levelの新規温度補償性メカニズムの解明を主眼とし、まずシアノバクテリアの概日時計システムであるKaiCリン酸化振動子の数理モデルを解析した。その結果、KaiCのリン酸化を促進し酵素のように振る舞う、KaiAの「取り合い」を介してKaiCリン酸化振動の周期の温度補償性が生じることを見いだした。我々はこのメカニズムをenzyme-limited competition(ELC)と名付けた。さらに、共通の酵素により触媒される多段階反応が存在すれば、より簡単な触媒反応ネットワークでもELCにより温度補償性が生じる事を見いだした。また、温度補償性だけでなくATPなどの化学物質濃度変化に対する周期の頑健性も、ELCにより生じることが、最近の研究で分かってきた。そちらも合わせて報告したい。

参考文献
Hatakeyama TS, Kaneko K., Generic temperature compensation of biological clocks by autonomous regulation of catalyst concentration., Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 May 22;109(21):8109-14. [2]

哺乳類卵母細胞における
染色体動態のライブイメージングと定量解析

  • 北島 智也(理研CDB)


卵母細胞は減数分裂を行うことにより半数体の卵子を生む。多くの体細胞は、分裂期に入る前に2つの中心体を有しており、これらが紡錘体の二極となるが、卵母細胞はこのような中心体を有していない。その代わり80以上もの微小管重合中心MTOCが細胞質に散らばっており、これらが自己集合することで特別な様式の紡錘体を形成する。したがって卵母細胞の減数分裂では、体細胞分裂とは根本的に異なる染色体分配のメカニズムが用いられている可能性がある。

 私たちは最近、自動化したレーザー走査共焦点顕微鏡を用いて、マウス卵母細胞の減数第一分裂における染色体および動原体の動態を空間的かつ時間的に高解像度で記録した。得られた画像をフィルタリング後に三次元構築し、すべての動原体シグナルを検出してそれらの動態を完全に追跡するパイプラインを確立した。これにより得られた動原体の完全な四次元位置情報を用いて、染色体動態の網羅的かつ定量的な解析を行うことが可能となった。この技術は、卵母細胞における染色体動態のメカニズムを研究するための強力なプラットフォームとなり得る。

 私たちはこの技術を用いて正常なマウス卵母細胞における染色体動態を解析し、減数第一分裂の染色体動態は次の2ステップを踏んで染色体分配に経ることを明らかにした。すなわち、1)前中期ベルトの形成、そして次に2)染色体の両方向性の獲得である。どのようなメカニズムでこれらのステップが順番通りに進むのか、またそのことが染色体分配の正確性に貢献しているのかは明らかになっていない。

 私たちは現在、確立した高解像度イメージングと定量解析のためのパイプラインを活用し、特定のタンパク質の機能を阻害した時の染色体動態を解析することで、これらの問題にアプローチしている。今回の発表では、そこから得られた新しい知見について、また、開発したパイプラインの有用性と発展性についても議論したい。

参考文献
Kitajima TS, Ohsugi M, Ellenberg J., Complete kinetochore tracking reveals error-prone homologous chromosome biorientation in mammalian oocytes., Cell. 2011 Aug 19;146(4):568-81. [3]



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