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Contents

生命現象と構成論的アプローチ:生命現象と物理・化学現象とのはざま

講演者:
斉藤 博英(京都大学白眉)
住野 豊(愛知教育大学)
松田 充弘(京都大学生命学研究科)
前多 裕介(京都大学白眉)

日時

2012年11月24日 10:30-12:30 セッション1

Chair

TBA

概要

人工RNAスイッチによる自律的な細胞運命制御システムの構築に向けて

  • 斉藤 博英 (京都大学白眉)


 細胞内状態に応じた精密な遺伝子操作の技術を確立し、様々な標的細胞の運命を自律的に制御するための基盤技術を創出することは、重要な課題である。シンセティックバイオロジー分野の進展により、これまでに様々な人工遺伝子回路が設計され、細胞内シグナルを制御することを目指す多くのモデル研究が進展している。しかしながら、設計された回路は細胞内で目的の挙動を示さない場合も多い。また、回路を構築するための「分子パーツ」の数には限りがあり、その傾向は特に哺乳類細胞において顕著である。回路構築の基本素子となる生体分子を分子デザインにより創出し、かつ生体分子間相互作用を自在にエンジニアリングできれば、より高度で洗練されたシステムの構築が期待できる。

 我々は、人工システム構築の重要な分子パーツとして、RNAおよびRNA-タンパク質 (RNP)相互作用に着目し、人工RNA/RNPによる新しい遺伝子操作技術の開発を進めている。具体的には、哺乳類細胞内シグナルを制御できる人工RNAや RNP の分子デザイン法を開発した。この方法を活用し、細胞内で発現する特定のタンパク質を検知し、mRNA からの目的遺伝子の翻訳を自在にON/OFF制御し、かつその生死を決定できる「人工 RNA スイッチ」の開発に成功した。この方法を様々な入力因子に応答するように拡張できれば、細胞内部状態の様々な変化に応じて、自律的に目的遺伝子の発現をON/OFF制御できるシステムの構築へとつながるだろう。

 さらに、mRNA とタンパク質の相互作用を基盤とする負の翻訳フィードバック回路を人工的に設計・構築することに成功した。 細胞内でのRNP親和性を測定することで、単純な数理モデルを元に、細胞内でのタンパク質発現の挙動を定性的に予測できることがわかった。このように、「RNPパーツ」の生化学的解析データを元に人工回路を設計・構築できるため、より精度の高い人工回路の構築が期待できる。

 より複雑な細胞運命の理解・制御のためには、数理モデル・シミュレーションを活用し、細胞内で目的の機能を実現する人工システムを設計することが必須となると考えられる。その設計戦略と人工RNAシステムの今後の可能性について議論したい。

参考文献
1.Saito H, Kobayashi T, Hara T, Fujita Y, Hayashi K, Furushima R, Inoue T., Synthetic translational regulation by an L7Ae-kink-turn RNP switch., Nat Chem Biol. 2010 Jan;6(1):71-8.[1]
2.Ohno H, Kobayashi T, Kabata R, Endo K, Iwasa T, Yoshimura SH, Takeyasu K, Inoue T, Saito H., Synthetic RNA-protein complex shaped like an equilateral triangle., Nat Nanotechnol. 2011 Feb;6(2):116-20.[2]
3.Saito H, Fujita Y, Kashida S, Hayashi K, Inoue T., Synthetic human cell fate regulation by protein-driven RNA switches., Nat Commun. 2011 Jan 18;2:160.[3]
4.Kashida S, Inoue T, Saito H., Three-dimensionally designed protein-responsive RNA devices for cell signaling regulation., Nucleic Acids Res. 2012 Jul 18.[4]


自発駆動する微小管が生み出す巨大な渦構造

  • 住野 豊(愛知教育大学)


 自ら動きまわる能動的な要素の集合体は,動物の群れや細胞の集合体など,様々なスケールで我々の身近に存在している.このような集合体は,熱平衡状態で熱的に揺らぐ受動的な要素の集合体と異なり,平衡統計力学での記述はできない.しかしながら,群れ運動の様子などに着目すると共通の枠組みでの理解を示唆させる振る舞いが見うけられる.そこでこれら自ら動き回る能動的な要素の集合体を“Active Matter”[1]と称し,統一的に理解しようとする試みが盛んとなっている.

 このような背景の下,我々は運動する要素として基板上に吸着した分子モーターであるダイニンにより駆動される10 μm程度の微小管に着目し,微小管の集団挙動を観察した[2].すると,ATPを注入し微小管の運動を始めたばかりでは構造が見られないが,徐々に微小管が集合・配列を始め,最終的に400μm程度の巨大な渦構造を形成した.この渦は10 mm程度もある基板上を全て覆いつくしており格子を形成していた.また単一の渦内部の微小管の向きは双方向であった.この集団挙動を理解するためまず微小管間の相互作用を観察した.本系では,微小管同士の1対1衝突が観察でき,衝突前は相互作用が見られず,衝突時に排除体積の効果により運動の向きが平行か反平行に揃うことが見出された.つまり微小管同士は局所的なネマチック相互作用を示すことが見出された.更に孤立した周りと相互作用しない微小管の運動特性を軌跡から解析した.すると,微小管の軌跡は曲率に長時間の相関をもつことが見出された.これら実験結果より短距離のネマチック相互作用と,運動方向変化に対する相関をもつ揺らぎを取り入れ,短距離相互作用する自走粒子のモデルであるVicsekモデル[3,4]の拡張を行った.このモデルを用い,実験で測定した実験系の値から得られるパラメータを用いて数値計算を行うと渦格子の生成が再現された.

 以上の結果は,局所的で単純な衝突相互作用であっても,運動方向の揺らぎの有限時間相関により結晶のような周期構造を生み出す点で興味深い.また,方程式の上では相関のある運動方向の揺らぎは時間的に緩和する粒子の内部状態と考えることもできる.これは,より一般的な系,つまり動物集団や人間集団の集団運動を考える上で内部状態の取り扱いの一手法としても興味深いと考えられる.

参考文献
[1] S. Ramaswamy, "The mechanics and statistics of active matter," Ann. Rev. Cond. Matt. Phys. 1, 323-345 (2010).
[2] Y. Sumino, K. H. Nagai, Y. Shtaka, D. Tanaka, K. Yoshiakwa, H. Chaté, and K. Oiwa, ."Large-scale vortex lattice emerging from collectively moving microtubules, " Nature 483, 448-452 (2012). [5]
[3] T. Vicsek, A. Czirók, E. Ben-Jacob, I. Cohen, and O. Schochet, "Novel type of phase transition in a system of self-driven particles," Phys. Rev. Lett. 75, 1226-1229 (1995). [6]
[4] G. Grégoire and H. Chaté "Onset of Collective and Cohesive Motion" Phys. Rev. Lett. 92, 025702 (2004). [7]


細胞間フィードバック回路を用いたパターンの作製

  • 松田 充弘(京大・生命学研究科)


 近年、生物機能を構成的に理解しようという取り組みが盛んになってきています。そこで私たちは、多細胞生物にみられる様々な細胞のパターンに着目し、それがどのようにして実現されているのかといった問題に、細胞内に遺伝子回路を作製しパターンを再現することで取り組んでいます。

 今回私たちは、Delta/Notchシグナル伝達経路を利用して、接着依存的な細胞間ポジティブフィードバック回路を細胞内に組み立てることで、細胞集団における空間的なシグナル伝播パターンを生み出しました。これは隣接した細胞のDeltaによって活性化されたNotchの下でDeltaの発現が誘導され、そのDeltaが隣の細胞にシグナルを伝えることでDeltaの発現が伝播していくものです。シグナルの伝播には、そのシグナル伝達の高いヒル係数と十分な増幅が必要であると予想されました。そこで数理モデルとシミュレーションを参考にして、Delta/Notchシグナルを増幅するために転写カスケードを2段階にし、Notchの正の制御因子であるLunatic fringeを用いたところ、この遺伝子回路が組み込まれた細胞でシグナル伝播パターンが見られました。またさらなるシミュレーション解析から、細胞集団における双安定性とシグナル伝播の実現条件は同じであることがわかりました。これらの結果は細胞間ポジティブフィードバックが、シグナル伝播パターンと細胞集団における双安定性の実現に十分であることを示しています。

 現在私たちは、別の細胞間ポジティブフィードバックを用いた側方抑制パターンの作製に取り組んでおり、あわせて発表できればと考えています。また生物にみられる様々なパターンがどのようにしてできるかについて議論したいです。

参考文献
Matsuda M, Koga M, Nishida E, Ebisuya M. Synthetic signal propagation through direct cell-cell interaction. [8]


DNA/RNAを操る温度勾配:分子輸送から生命の起源、細胞の操作へ

  • 前多 裕介(京都大学白眉)


 我々の住む地球には、kmスケールあるいはそれ以上の大きさに広がる温度の勾配がある。このような大きさでは温度勾配に駆動されて熱対流がおこり、この対流は大陸移動や気象現象を支配する。そして温度・熱は私たちの生活をも一変させた:産業革命においてカルノーは温度差のある2つの熱浴の間で作動する熱機関の原理を定式化し、後に熱力学第2法則が導かれることとなる。

 mm以下のより小さなスケールでは、海底噴出孔の表面にある穴に温度勾配が存在することが知られている。熱対流が抑えられるような微小系の温度勾配では、化学物質は温度勾配に駆動されて一方向に輸送され(熱泳動またはソーレ効果と呼ばれる)、物質量に不均一性をもたらすことが予想される。こうした微小系の分子輸送はDNAやRNAなど生体分子にどのような役割を果たすであろうか?

 DNA/RNAを含む微小系におけるソーレ効果を明らかにするため、我々は赤外光レーザーにより局所的に温度勾配を形成しDNAとRNAの熱泳動を計測した。その結果、ポリエチレングリコール(PEG)高分子溶液中の熱泳動によりDNAとRNAが輸送され、そのサイズに応じて分離・濃縮しうることを発見した [1]。これは熱泳動によって溶液中のPEGが濃度勾配を形成し、DNA表面のPEG濃度勾配に比例した静水圧の不均衡が誘起されることで低PEG濃度領域へ泳動(拡散泳動)され、熱泳動に逆らって高温側へと押し戻されるためと考えられる。さらに、この分子分離・濃縮プロセスにはDNAの凝縮構造やRNAの塩基対形成など立体構造の影響が顕著に現れることを明らかにし、分子の折り畳み構造により泳動の輸送方向を制御できることがわかった [2]。本講演ではこれらの結果の詳細を示すとともに、温度勾配の元で複雑な構造をもつ核酸高分子が輸送を介して選択される生命の起源の物理的シナリオを議論する。さらに、本研究の応用として生体分子と細胞を操作する新たな技術の開発についても紹介したい。

参考文献
[1] YT Maeda, A Buguin, A Libchaber (2011) Phys. Rev. Lett. 107: 038301.
[2] YT Maeda, T Tlusty, A Libchaber, PNAS in press.


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