第三回年会セッション3

From Japanese society for quantitative biology
Revision as of 16:03, 1 November 2010 by Akkimura (talk | contribs)

第三回年会 (セッション3)大規模情報の定量生物学

日時

2010/11/28 セッション3

Chair

  • 木村 暁(遺伝研)

概要

細胞形態の定量解析と分類

  • ○斉藤典子、徳永和明、*村瀬八重子、*小林民代、*坂内誠、中尾光善(熊本大・発生医学研究所・細胞医学、*オリンパス株式会社) 

  細胞核内は遺伝子の転写、複製、RNAのプロセッシングなど生命活動に重要な事象が複雑な制御を受けながら起こるため、高度に組織化され、染色体間領域に様々な核内構造体が存在する。発生・分化の各過程や各種の疾患において、遺伝子の発現プロファイルがグローバルに変換するとともに、染色体を含めた核内構造がダイナミックに変動する。細胞核の形態は細胞状態を評価する指標として優れており、例えば、癌細胞における核構造異常(核異型)は病理学的な診断に広く用いられている。これらの形態を数値化し、客観的な評価基準を確立することは、生命科学の基礎研究および臨床医学において有益と考えられる。そこで我々は細胞核の形状をコンピュータプログラム(Olympus CELAVIEW RS100)に自動認識させて測定、計測する“モデルベースド”な方法と、多目的パターン認識ソフトウエア(WND-CHARM)を用いて機械視覚・学習を経て形態の類似度を計測し、細胞の状態を自動分類・評価する、“モデルフリーシステム”のふたつの異なるアプローチを確立することを目指している。現在までに我々は動物培養細胞系を用いて、正常細胞群および異常細胞群の核内構造体(核スペックル、カハールボディ、PMLボディ)や核膜の形態の数値化を行った。siRNA処理を施した細胞に、蛍光免疫染色を施し、イメージングサイトメータ(Olympus Celaview RS100)で画像を多量取得し、多因子画像解析計算法を施行することにより、各構造体の形態的特徴を自動検出・計測し、個々の細胞または細胞集団における核内構造を定量的に評価した。これらに加え、がん疾患組織を含む様々な細胞形態の類似度を定量的に評価し、診断補助技術などへの応用の可能性を見出した。


第三回年会ページトップに戻る
第三回年会セッションへ

次世代シーケンサーによる細胞分化に伴う転写制御ネットワーク再構成の包括的かつ定量的な測定

  • 二階堂 愛(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 機能ゲノミクスユニット)


我々のからだは約300種類の細胞からなる。これらの細胞はたったひとつの細胞に由来し、原則的にはすべて同じゲノム配列を持つ。均一な細胞から多様な細胞の個性を作り出すものはなにか、また、どのようにその個性を維持するのかを明らかにすることは、我々の体の成り立ち(発生)や維持(再生)を理解することに繋がるため、生命科学の重要な問題である。

近年、マイクロアレイや網羅的なcDNA配列決定などのオミックス技術により、細胞の性質を決める転写因子の同定が進んできた (例: iPS細胞)。これにより、細胞の状態は、数千の遺伝子を制御するわずか数種類の転写因子によって作り出せることが明らかになりつつある。これらの研究から明らかになったことの1つとして、「細胞状態の数だけ転写因子の種類が必要となるわけではない」ということがある。ある転写因子は、明らかに、さまざまな細胞状態で再利用されている。

ここで疑問となるのは、「同じ転写因子が異なる細胞状態をどのようにして作り出すのか」という点である。我々は、このような再利用される転写因子が、ほかの転写因子と協調して働くことで、細胞種依存的に、制御する遺伝子を切り替えたり、制御の方向(活性・抑制化)を変えたりすると考えた。この現象を「転写制御ネットワークの再構成(rewiring)」 と呼ぶことにする。

ネットワークの再構成を定量的に測定するには、遺伝子の転写量を測定するマイクロアレイなどの技術では達成することは困難である。しかし、近年、高出力・高並列性を備えた次世代シーケンサーが登場し、免疫沈降法との技術的な統合により、特定の転写因子に限れば、包括的な転写因子結合領域を安価に高速に、そして定量的に、同定できるChIP-seq法が開発された。

本研究では、胚性幹細胞と栄養外胚葉細胞の両方で再利用される転写因子に注目し、分化の際にどのようにその転写因子がターゲットや活性を変えるかを捉えることを目的とした。まず胚性幹細胞から栄養外胚葉細胞へ分化する培養細胞系を用い、経時的にマイクロアレイとChIP-seqを行なった。この定量データから、この転写因子と協調的に働く転写因子を同定した。さらに、転写因子結合が遺伝子発現に対し、活性的に働くのか、抑制的に働くのかを予測するために、転写因子のプロモータへの結合量がmRNAの転写量に与える影響について定量的なモデルを構築し、転写因子活性を予測した。これらの結果より、転写制御ネットワークの構造がダイナミックに再構築される様子を明らかにすることができた。


第三回年会ページトップに戻る
第三回年会セッションへ