第七回年会一日目2

From Japanese society for quantitative biology
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情報の定量生物学 15:30-17:30

定量生物学と情報生物学(Quantitative biology and bioinformatics)

  • 講演者:岩崎渉(東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻)http://iwasakilab.bi.s.u-tokyo.ac.jp/
  • 要旨:定量生物学と情報生物学(バイオインフォマティクス)の関係はけっこう微妙なようだ。いずれも分子生物学の隆盛というコンテキストのもと、それと異なった領域という意識のされ方を指向している。と同時に、生物学において定量することは当たり前のことであるのと同様に、生物学において情報を扱うのも当たり前のことである。生命現象の理解のために定量生物学と情報生物学が融合することはごく自然な要請だと思われるが、現状では、その微妙な関係は保たれようとしているようだ。演者はこれまで、細胞レベルから生態系レベルまでの理解を目的として、ゲノムデータ・オミクスデータから学術文献・生物動画データまでを対象とした、アルゴリズム開発・データ解析からデータビジュアライゼーションまでを含む幅広い情報生物学研究を行ってきた。それらの経験を踏まえ、情報生物学の現状とそのボトルネックについて私見を述べた上で、定量生物学と情報生物学の融合が何をもたらしうるかを考えたい。

線虫中枢神経系のまるごと計測および定量解析に向けた取り組み(Towards measurement and analysis of whole-brain activity in C. elegans)

  • 講演者:寺本孝行(九州大学)、吉田亮(統計数理研究所)(ペアプレゼン)
  • 要旨:脳(中枢神経系)は、記憶や学習、行動の制御など、ヒトを含め動物個体の生存にとって重要な機能をもつ。しかしながら、そのメカニズムについては未だ不明な点が多い。かりに全ての中枢神経の活動を個々のニューロンレベルで計測・解析ができれば、脳機能を解明するうえで有用な情報を獲得できる。私たちは、この目標を実現するために、コンパクトな脳を持つ線虫C. elegansをモデルシステムとして、最新の光学技術とデータサイエンスを融合させた計測技術の開発と研究を進めている。これまでに、生きた線虫の全中枢神経系の立体Ca2+イメージングを可能にする4-Dイメージングシステムとニューロンの活動状態を定量化するための画像解析パイプラインを開発してきた。パイプラインは、画像中の細胞位置の自動検出、イメージレジストレーション、細胞トラッキングアルゴリズムから構成される。細胞検出では、カーネル密度推定とRPHC法という独自の最適化法を組み合わせ、解析手法の設計を行った。トラッキングでは、マルコフ確率場で細胞位置の時空間変化をモデリングし、トラッカーの置換や併合を回避しながら、数百の細胞集団の動きを追跡することに成功した。さらに、これらの技術を用いて、無刺激条件において複数のニューロンが周期的に同期した活動をしていること、また匂い刺激に応答する複数のニューロンが存在することを明らかにしてきた。現在は、可視化された神経回路の情報処理のプロセスと電子顕微鏡で明らかにされている線虫のシナプス結合の情報と組み合わせながら、神経回路のシミュレーションモデルの開発を目指している。ここで、異なる個体および実験条件から得られたデータを比較・解析するために、高精度なイメージレジストレーションアルゴリズムが必須となるが、これについても独自手法の開発を進めている。さらに、ベイズ統計のアイデアにもとづきシミュレーションとイメージングデータを組み合わせることで、神経系全体の内部状態を統計的に推定する研究を展開したいと考えている。本プロジェクトのメンバーは、実験とモデリング、統計科学の専門家から構成されている。講演では、これら三つの要素を組み合わせることの重要性ならびに独自のモチベーションを持ちプロジェクトに参画する異分野の研究者が集まることで何を生み出せるのかを議論したい。
  • 参考文献:

T. Tokunaga, O. Hirose, S. Kawaguchi, Y. Toyoshima, T. Teramoto, H. Ikebata, S. Kuge, T. Ishihara, Y. Iino, R. Yoshida (2014) Automated detection and tracking of many cells by using 4D live-cell imaging data, Bioinformatics, 30(12):i43-i51.

シグナル伝達におけるMaxwellのデーモン (Maxwell's demon in biochemical signal transduction)

  • 講演者:伊藤創祐(東京大学理学系研究科物理学専攻)http://daisy.phys.s.u-tokyo.ac.jp/student/sosuke/index.html
  • 要旨:シグナル伝達とは生命現象を維持するために, ノイズの多い環境下で行われる情報伝達機構である. 通常の情報理論によると, 相互情報量のような "情報"によってノイズ下での正確な通信の限界が与えられるが, 相互情報量のような "情報" が, 生体内で実際にどのような役割を果たしているかは自明でない. 一方で, Maxwellのデーモンと呼ばれる熱力学の思考実験から, 情報処理の熱力学が近年発展してきており, "情報" と熱力学的な量(e.g., 仕事や自由エネルギー)との関係が, 一般法則として明らかになってきた.我々は, Maxwellのデーモンの議論を生体内シグナル伝達に適用することで,熱力学的に"情報"がシグナル伝達のノイズに対するロバストさに制限を与えることを明らかにした.特に大腸菌(E. coli)走化性のシグナル伝達モデルを用いて, 生体内情報伝達の熱力学的なコストを議論したい.
  • 参考文献:

[1] S. Ito and T. Sagawa, Phys. Rev. Lett. 111, 180603 (2013). [2] S. Ito and T. Sagawa, submitted. (2014). arXiv:1406.5810 (preprint)

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