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== 発表要旨 ==  
 
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=== 1. 多細胞動物の発生における新しい視点と新しい計測技術 ===
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=== 多細胞動物の発生における新しい視点と新しい計測技術 ===
 
:発生生物学は比較解剖学的研究から興り、胚の外科的な操作によるオーガナイザーやモザイク発生などの概念の提唱を経て、1980年代以降は遺伝学や分子生物学と結びついて発展してきました。今回の発表では、ピンセットを片手に自分の眼を頼りに研究してきた発生生物学者が、個体発生のかたさとやわらかさの表現方法を模索するにあたり、どういった問題を設定し、生物のどのような特性を計測していくべきかを、計測技術の開発も含めて議論したいと思います。
 
:発生生物学は比較解剖学的研究から興り、胚の外科的な操作によるオーガナイザーやモザイク発生などの概念の提唱を経て、1980年代以降は遺伝学や分子生物学と結びついて発展してきました。今回の発表では、ピンセットを片手に自分の眼を頼りに研究してきた発生生物学者が、個体発生のかたさとやわらかさの表現方法を模索するにあたり、どういった問題を設定し、生物のどのような特性を計測していくべきかを、計測技術の開発も含めて議論したいと思います。
 
* 氏名 杉村 薫、山口 良文
 
* 氏名 杉村 薫、山口 良文

Revision as of 12:28, 2 October 2008

会議趣旨

第一回「定量生物学の会(仮)」会議参加者の皆様

本日第一回「定量生物学の会(仮)」を東京大学駒場キャンパスにて、クローズドミーティングとして開催させていただきます。皆様には,お忙しい中参加をお引きうけいただき,誠にありがとうございます。

 現在分子生物学・発生生物学・生物物理学・そして数理生物学など生命科学研究を担う多数の領域において、「定量的な方法論で生命現象を明らかにしてゆく」という活動が今後の各領域を担う大きな方向性として同時多発的・相互依存的に浮上しつつあると思います。

 この会合はこのような背景を受け、各領域において自ら手を動かして定量的な方向性を模索している若手研究者を集めて、今後の定量的な生命科学の方向性、未来、意義、問題点などをブレインストーミング的に議論し、領域横断的な方向性や連携関係をトップダウン的にではなくボトムアップ的に模索できないか、という目的でスタートし、幸い、様々な関係者のご協力のもと、今回の開催が可能になりました。

今回はなるべく領域横断的な議論が可能になるように、参加者の人数を限ったクローズドミーティングとし、発生生物・細胞生物・分子生物・生物物理・1分子生物・数理生物・バイオインフォマティクス・バイオイメージング・生命工学などの、各分野を牽引してゆくポテンシャルと熱意を秘めていると思われる関東近辺の若手研究者に、分野の偏りがなるべく少なくなるように声をかけさせていただきました。

 現在定量的な方向性は様々な領域で、特に志のある若手によって研究が進められていると思いますが、おそらくほとんどの領域内でそのような試みはいまだマイノリティーであり、自分たちが所属している領域内の既存の会議だけでは具体的な情報交換だけでなく定量的な研究を行っている研究者間での密な議論すらも、不足している、というのが現状ではないかと思います。

 このような状況に対し、今後の定量的な生命科学の方向性や解決すべき問題点について、おそらく参加者の皆様それぞれが、具体的な意見をお持ちであると推察します。本研究会はそのような現状を踏まえ、若手研究者が情報を交換したり、外部へ情報を発信したり、そして生命科学の各領域をまたいだ今後の定量的な生命科学の方向性などの個々では解決できない問題を議論し、そして主体的に解決してゆく一つのきっかけになればよいと思っています。

 ですので、あくまで今回の会は、皆さんが集まる機会、そして考え議論するためのたたき台として位置づけられていると、世話人一同考えております。今回参加していただく発表者・参加者間での自発的かつ積極的な議論の中で、参加する人それぞれに意味がある会の方向性、そして定量的な生命科学の可能性というのが見えてくれば良い、と考えております。そのために、発表者による発表後、参加者全員での総合討論の時間を長めにとらせていただきました。

ぜひ発表者だけでなく、参加者の方々も積極的に参加していただき、有意義な時間を共有できたらと思っております。

世話人:黒澤元、小林徹也、杉村薫、舟橋啓、前多裕介

日程・会場・発表形式

  • 会議日程: 平成20年2月18日(月)11:00 ~ 18:00
  • 会議会場: 東京大学生産技術研究所
  • 発表形式:講演時間は1人 20~25分、質疑応答を含めて30分以内でお願いいたします

スケジュール

  • 趣旨説明:前多裕介、小林徹也 (11:00~11:10)
  • 午前中の講演(11:10~12:30)
    • 理研 杉村薫、東京大学 山口良文(発生生物学)
    • 遺伝研 木村暁 (発生生物学・生物物理)
    • 名古屋大学 五島剛太(細胞生物学・分子生物学)
  • 昼食 & 発表者・参加者の自己紹介 (12:30~13:30)
  • 午後の講演Ⅰ(13:30~15:00)
    • 東京大学 前多裕介:(細胞生物学・生物物理)
    • 早稲田大学 鈴木団:(生物物理)
    • 理研 日比野佳代:(細胞生物学・1分子)
  • 休憩
  • 午後の講演Ⅱ(15:10~16:30)
    • 理研 小林徹也:(インフォマティクス・数理)
    • 東京大学 澤井哲:(細胞生物学・生物物理)
  • 休憩
  • 全体討論(16:30~19:00)

参加者名簿

敬称略/アイウエオ順

  • 石原秀至(東京大学・金子研)
  • 尾崎裕一(東京大学・黒田研)
  • 木下和久(理研・和光)
  • 木村暁(遺伝研)
  • 黒澤元(東京大学・ERATO 複雑数理プロジェクト)
  • 五島剛太(名古屋大学)
  • 高坂洋史(東京大学・能瀬研)
  • 小林徹也(理研・CDB/学振)
  • 澤井哲(東京大学・ERATO複雑系生命プロジェクト)
  • 島田尚(東京大学・伊藤伸康研)
  • 杉村薫(理研・和光・宮脇研)
  • 鈴木誉保(理研・CDB)
  • 鈴木団 (早稲田大学・石渡研)
  • 筒井秀和(阪大・医・統合生理)
  • 中村秀樹(理研・BSI・御子柴研)
  • 日比野佳代(理研・和光・佐甲研)
  • 舟橋啓(慶應義塾大学)
  • 前多裕介(東京大学・佐野研)
  • 松林完(東京大学・河崎研)
  • 山口良文(東京大学・三浦研)

全体討論のたたき台

  1. 定量的な生物学におけるBiological Question
    1. どんな問題に定量的アプローチが不可欠か?逆に定量では解けない問題はなにか?(分子生物学の範疇の問題は何か?)
    2. そのような問題はどれくらいあるのか?
    3. 旧来のバイオロジー・バイオロジストもそれを共有できるのか?
    4. 定量的な生命科学があつかう問題は、物理的・数理的な素養が無いと面白いとは思わないのか?
  2. 定量的なアプローチや技術
    1. 必要としている人、期待している人はどれくらいいるか?
    2. どうしたらそういう人たちを動かせるのか?
    3. 今定量的な方法論のコアになりつつある技術は?
    4. 今はないけれど必要な技術は?
  3. 定量に関わる人々・連携体制
    1. 各領域どれくらいの人が定量的な方向性に実際すでに関わっているのか?その割合は
    2. 各領域どれくらいの人が定量的な方向性に期待を持っているのか?その割合は
    3. すでに関わっている人々はどうやって目の前の定量特有の問題を解決しているのか?
    4. 定量的な方向性は1つの研究室だけで解決できるのか?
    5. 領域間の連携は必要か?具体的にどういった連携が必要か?
    6. どうやって領域間の相互理解を深めてゆくか?
    7. そのための具体的な仕掛けはなにか?
  4. 会について
    1. 会について何を求めるのか?
    2. 会に何ができるか?
    3. 具体的に会をとおして行いたいことは無いか?(研究会企画など)
    4. 会の名称は会を表すのに適切か?
  5. そのほか積極的に議題を募集します

発表要旨

多細胞動物の発生における新しい視点と新しい計測技術

発生生物学は比較解剖学的研究から興り、胚の外科的な操作によるオーガナイザーやモザイク発生などの概念の提唱を経て、1980年代以降は遺伝学や分子生物学と結びついて発展してきました。今回の発表では、ピンセットを片手に自分の眼を頼りに研究してきた発生生物学者が、個体発生のかたさとやわらかさの表現方法を模索するにあたり、どういった問題を設定し、生物のどのような特性を計測していくべきかを、計測技術の開発も含めて議論したいと思います。
  • 氏名 杉村 薫、山口 良文
  • 所属 理研・BSI・宮脇研(杉村)、東京大学大学院薬学系研究科遺伝学教室(山口)
  • 専門 発生生物学

2:細胞建築学をめざして~数学オンチの定量生物学~

私の発表では「数学の素養のない研究者による定量生物学研究」をテーマにします。膨大な生物情報、高性能な測定機器、複雑な生命現象、、、現在の生物学においてはデータ取得と解析・考察の両面で定量性が求められています。一方で、生物学者の中には定量性を操れる数学的素養のある人が少ないのが現状です。私自身は数学的素養がないにもかかわらず無謀にも画像処理や力学モデリングを活用した研究にたずさわっています。本発表では線虫C. elegansにおける中心体の細胞内配置機構の研究を例に、素人による定量生物学研究の問題点と価値について議論します。また最近は「数学には苦手意識があるけど定量生物学研究がしたい」という若い研究者が増えて います。こういった人たちを取り込んでこの分野を盛り上げていくためにはどうしたらよいかについても議論したいと思っています。 氏名 木村 暁 所属 国立遺伝学研究所 新分野創造センター 細胞建築研究室 専門 細胞建築学

3:定量生物学の敗北 ー 全ゲノムRNAiスクリーニング in 2007

我々は最近、ショウジョウバエ培養細胞を用いて全ゲノムRNAiスクリーニングを行い、「スピンドル」と呼ばれる細胞分裂装置の形態形成に必要な遺伝子を205同定した(2007、Science)。これは、ハエの約15,000遺伝子を順に阻害し、顕微鏡画像を基にスピンドルの形態に異常がないかを逐一調べたものである。全自動顕微鏡装置や半自動化した画像処理法を用いて、比較的短期間(一年程度)で大規模なスクリーニングを終えることができた。 一般には「成功した」との評価を得ているスクリーニングであるが、実は我々には少し敗北感もある。プロジェクトを始めた段階では、コンピュータの力をフルに活用して、これよりもっとスピーディーに、もっと簡便に、もっと網羅的に、もっと定量的にできるものだと思っていた。なぜ思ったより定量的なアプローチがうまくいかなかったのか、どうすれば今度はうまくいくのか、今考えていることを発表したい。 氏名 五島 剛太 所属 名古屋大学 高等研究院 専門 細胞生物学 細胞分裂

4:膜ゆらぎの秩序と細胞運動

細胞運動は発生現象、免疫反応、裂傷回復、ガンの転移・浸潤など多くの生体反応に見出される。「細胞はどのようにして動くのか?」という動作原理の解明は高次生命現象の理解に向けた重要課題の一つである。しかし、細胞運動のように動的な現象を理解するためには関連分子の同定だけでなく、ダイナミクスに注目した定量解析が必要不可欠である。そこで本研究では、細胞膜の変形ダイナミクス(膜揺らぎ)に着目し、膜揺らぎと細胞運動の動的相関から普遍的な細胞運動メカニズムの探求を行った。 氏名 前多 裕介 所属 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 専門 生物物理学/細胞生物学/非線形物理学

5: HeLa細胞一匹からの熱発生検出

生きた細胞は、莫大なエネルギーを使用することで細胞内外、あるいは細胞内と小胞体内部との間で1000倍にもなる非常に大きな[Ca2+]勾配を維持している。この点に着目し、単一細胞内における[Ca2+]変化と共役した熱発生を検出することを試みた。その結果、Ca2+担体であるイオノマイシンを用いて細胞外から細胞内へ強制的にCa2+を流入させると、それよりやや時間的な遅れをもって細胞の温度が上昇することを見出した。温度上昇は最大で約1℃で、また細胞外[Ca2+]が高いほど、この時間的遅れは短くなることも分かった。さらに小胞体のCa2+-ATPaseの働きをタプシガルギンで選択的に阻害すると、温度上昇が抑えられた。以上の結果は、熱発生が小胞体のCa2+-ATPaseの酵素活性と結びつくことを強く示唆している。 氏名 鈴木 団 所属 早稲田大学 先端科学・健康医療融合研究機構 専門 生物物理


6:情報伝達蛋白質Ras, Raf間の分子認識の細胞内1分子可視化解析

生体分子RasからRafへの信号伝達反応のスイッチング機構は、細胞の形態制御や増殖、分化に関与する重要な情報伝達反応機構の一つであるが、その詳細は明らかではない。そこで、RasとRafの結合解離反応や、活性化に重要だと考えられているRafの分子内構造変化を、生きた細胞内で1分子毎に可視化し、定量的に解析した。発表では、この反応の定量化により明らかにされつつある「RasとRafの分子認識機構」について報告し、RasからRafへの情報伝達が刺激に応じて適切に実行されるための仕組みについて考察する予定です。 氏名 日比野 佳代 所属 独立行政法人理化学研究所 佐甲細胞情報研究室 専門 細胞の生物物理学

7: 実験と理論はどう融合するのか? ~哺乳類概日リズムの集団光応答性を例に~

 実験と理論はどう融合するのか?できるのか?を最近の研究を例に考えてみたい。 実験研究者と共同で行った研究で我々は、哺乳類概日リズムの光応答性を調べるため、合成生物学的な手法で構成された光応答性培養細胞とハイスループットな定量測定系を用いて、その光応答性を定量化した。このデータを下に、我々は概日リズムが特定の光で止まってしまうSingularity現象の背後に個々の細胞の位相のばらつきがあることを予測し、1細胞での測定によりそれを検証、そして機構の一般性を理論モデルと定量データを組み合わせ実証することに成功した。本研究における実験と理論の役割の相補性について議論したい。 また、3年間ほぼ発生学者のみの環境に理論研究者として参加してわかってきた、融合研究実現のためにさらに踏み込んで理論研究者側からできること、なども示す。 氏名 小林 徹也 所属 独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター システムバイオロジー研究チーム 専門 数理工学、理論生物学、画像・データ解析、サイエンスコミュニケーション

8:社会性アメーバの細胞間ダイナミクス

細胞性粘菌は、一様に未分化な細胞集団から出発して、柄と胞子からなる子実体を作りあげます。動物の初期胚のように極性があらかじめ与えられていないにも関わらず、オーガナイザー的な役割をもつ細胞が出現し、サイクリックAMPの振動と波の自己組織化と、走化性によって多細胞体制を構築します。時空間的に展開する細胞間シグナリングの定量化や数理モデル化を、分子遺伝学的な解析と、ロボットを用いた変異株スクリーニングなどと平行して進めるアプローチについて解説します。そうした努力から浮かびあがってきた、パターン形成の機構について紹介し、さらに最近すすめているFRETを用いたシグナリングの可視化と、cAMP振動の分子機構の問題についても触れることで、生物の自発性とゆらぎの起源の問題についても議論したいと思います。 氏名 澤井 哲 所属 JST ERATO複雑系生命プロジェクト 専門 生命システムの物理学