Difference between revisions of "年会2009定量細胞生物学"

From Japanese society for quantitative biology
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*北村 朗
 
*北村 朗
 
** 分光イメージング手法を用いて細胞内タンパク質の凝集体形成を解析する
 
** 分光イメージング手法を用いて細胞内タンパク質の凝集体形成を解析する
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細胞内で生合成されるタンパク質は,最初,ポリペプチド鎖の状態で合成されるが,ポリペプチド鎖は折り畳む(フォールディングする)ことで機能的なタンパク質へと変化する.ところが,遺伝子の変異によってフォールディングに時間を要したり,さらにはまったくフォールディングができなくなっているタンパク質も存在する.このようなタンパク質は凝集体を形成し,アルツハイマー病,プリオン病などに代表される神経変性疾患のような重篤な病因となることが知られている.しかしながら,タンパク質のフォールディング過程を細胞内で時空間的に解析することは,従来の生化学的な手法ではきわめて難しいことから,分光学的な解析を試みようという発想に至った.分光器を用いた蛍光測定は今に始まったものではなく,古典的に使われてきた
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解析手法であるが,顕微鏡での分光測定を行うことで,従来,分光器で行っていた解析が生細胞内で可能になるということである.
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生細胞イメージングを用いた解析において重要となる情報は,タンパク質間相互作用と拡散・輸送などの動的挙動である.これらの事項を解析する手法として,従来より注目されていたのは,フェルスター機構による共鳴エネルギー移動(F¨orster Resonance Energy Transfer; FRET) である.これは,蛍光共鳴エネルギー移動と
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も呼ばれているが,分子間相互作用の起こるナノメートル程度に蛍光分子が接近し,かつ蛍光分子間の配座(方向の重なり)が一定の条件を満たしたときに起こる物理現象である.すなわち,FRET を用いることで分子間相互作用や構造変化を,蛍光強度変化の情報に変換して引き出すことが可能となる.我々は,このFRET をより定量的に評価するため,蛍光寿命イメージング顕微鏡(Fluorescence Lifetime Imaging Microscopy; FLIM)を利用している.FRET が起こると,エネルギーを供給する側の分子(ドナー)の蛍光寿命は短くなることが知られている.この蛍光寿命をイメージングして解析することができるのがFLIM である.発表では,このFLIM を用いることにより,細胞内において,タンパク質が凝集体を形成する過程をモニターした結果について説明したいと思う.
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また,タンパク質が相互作用や凝集を起こし,分子量が大きくなると,拡散速度が遅くなることから,拡散速度を測定することで,分子間相互作用や凝集度合いを評価することが可能となる.このように,拡散速度を測定する方法としては,蛍光褪色後の蛍光強度回復(Fluorescence Recovery After Photobleaching; FRAP) がよく用いられていたが,拡散係数が約10 cm2/s よりも大きい(拡散速度が速い)分子の評価はきわめて困難であった.蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy; FCS) を用いると,拡散係数が数百cm2/s 程度のものでも定量的に拡散係数の測定が可能であり,さらに下限は数nM オーダーと,低濃度の試料に向いているという利点がある.FCS は,励起光と共焦点光学系によって作り出された共焦点領域(Confocal volume)と呼ばれる微少領域に,蛍光分子が出入りすることによって生じる蛍光強度のゆらぎの相関を求めることで,蛍光分子が微少領域に滞留していた時間を解析できる,さらには拡散係数を算出できる手法である.
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このように,FRET とFCS をそれぞれ単独でもしくは組み合わせて解析することにより,タンパク質間相互作用や細胞内の挙動をより詳細に解析できるようになってきている.本講演では,これらの手法を用いて,神経変性疾患の原因となる異常タンパク質の凝集過程とその過程における構造変化を解析し,これら異常タンパク質の構造および分子量変化と細胞死の関係を明らかにした結果について話したいと思う.
 
*原田 崇広
 
*原田 崇広
 
** 細胞機能の遅いダイナミクス
 
** 細胞機能の遅いダイナミクス

Revision as of 07:07, 12 December 2008

第一回年会 (セッション5)定量細胞生物学

日時

2008/01/11 13:00-14:30 セッション5

企画担当者

  • 鈴木 誉保

概要

Comming soon

プログラム

  • 北村 朗
    • 分光イメージング手法を用いて細胞内タンパク質の凝集体形成を解析する

細胞内で生合成されるタンパク質は,最初,ポリペプチド鎖の状態で合成されるが,ポリペプチド鎖は折り畳む(フォールディングする)ことで機能的なタンパク質へと変化する.ところが,遺伝子の変異によってフォールディングに時間を要したり,さらにはまったくフォールディングができなくなっているタンパク質も存在する.このようなタンパク質は凝集体を形成し,アルツハイマー病,プリオン病などに代表される神経変性疾患のような重篤な病因となることが知られている.しかしながら,タンパク質のフォールディング過程を細胞内で時空間的に解析することは,従来の生化学的な手法ではきわめて難しいことから,分光学的な解析を試みようという発想に至った.分光器を用いた蛍光測定は今に始まったものではなく,古典的に使われてきた 解析手法であるが,顕微鏡での分光測定を行うことで,従来,分光器で行っていた解析が生細胞内で可能になるということである. 生細胞イメージングを用いた解析において重要となる情報は,タンパク質間相互作用と拡散・輸送などの動的挙動である.これらの事項を解析する手法として,従来より注目されていたのは,フェルスター機構による共鳴エネルギー移動(F¨orster Resonance Energy Transfer; FRET) である.これは,蛍光共鳴エネルギー移動と も呼ばれているが,分子間相互作用の起こるナノメートル程度に蛍光分子が接近し,かつ蛍光分子間の配座(方向の重なり)が一定の条件を満たしたときに起こる物理現象である.すなわち,FRET を用いることで分子間相互作用や構造変化を,蛍光強度変化の情報に変換して引き出すことが可能となる.我々は,このFRET をより定量的に評価するため,蛍光寿命イメージング顕微鏡(Fluorescence Lifetime Imaging Microscopy; FLIM)を利用している.FRET が起こると,エネルギーを供給する側の分子(ドナー)の蛍光寿命は短くなることが知られている.この蛍光寿命をイメージングして解析することができるのがFLIM である.発表では,このFLIM を用いることにより,細胞内において,タンパク質が凝集体を形成する過程をモニターした結果について説明したいと思う. また,タンパク質が相互作用や凝集を起こし,分子量が大きくなると,拡散速度が遅くなることから,拡散速度を測定することで,分子間相互作用や凝集度合いを評価することが可能となる.このように,拡散速度を測定する方法としては,蛍光褪色後の蛍光強度回復(Fluorescence Recovery After Photobleaching; FRAP) がよく用いられていたが,拡散係数が約10 cm2/s よりも大きい(拡散速度が速い)分子の評価はきわめて困難であった.蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy; FCS) を用いると,拡散係数が数百cm2/s 程度のものでも定量的に拡散係数の測定が可能であり,さらに下限は数nM オーダーと,低濃度の試料に向いているという利点がある.FCS は,励起光と共焦点光学系によって作り出された共焦点領域(Confocal volume)と呼ばれる微少領域に,蛍光分子が出入りすることによって生じる蛍光強度のゆらぎの相関を求めることで,蛍光分子が微少領域に滞留していた時間を解析できる,さらには拡散係数を算出できる手法である. このように,FRET とFCS をそれぞれ単独でもしくは組み合わせて解析することにより,タンパク質間相互作用や細胞内の挙動をより詳細に解析できるようになってきている.本講演では,これらの手法を用いて,神経変性疾患の原因となる異常タンパク質の凝集過程とその過程における構造変化を解析し,これら異常タンパク質の構造および分子量変化と細胞死の関係を明らかにした結果について話したいと思う.

  • 原田 崇広
    • 細胞機能の遅いダイナミクス
  • 澤井 哲
    • 粘菌細胞の相転移的振る舞いと分子ゆらぎ

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