年会2009定量発生生物学

From Japanese society for quantitative biology
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第一回年会 (セッション1)定量発生生物学

日時

2008/01/11 10:30-12:00 セッション1

企画担当者

  • 杉村 薫(理研)

概要

(暫定) 発生生物学は比較解剖学的研究から興り、胚の外科的な操作によるオーガナイザーやモザイク発生などの概念の提唱を経て、1980年代以降は分子生物学と結びついて発展してきました。本セクションでは、個体発生のダイナミクスの新たな表現を模索するために、どういった問題を設定し、生物のどのような特性を計測していくべきかを、数理的枠組みの構築や計測技術の開発を含めて議論したいと思います。

プログラム

(発表順、敬称略)

細胞内空間配置のデジタル化とデジタル細胞を用いた仮説の検証

  • 講演者:木村 暁(遺伝研)
我々は細胞内構造物の空間配置に興味を持ち研究をすすめている。個々の分子構造体はモノとして物理法則に従って”勝手に”動いているのに、細胞全体として適材適所適時にモノが配置され、それにより細胞が機能発揮するしくみを理解したいと考えている。このために、細胞内構造物の配置や動きを定量化することによって特徴や法則性を見出すことを行っている。そして、その特徴を説明づける仮説について、その帰結を数値シミュレーションにより定量化し、実際の細胞内の挙動と比較し、よりよい説明に到達することを目指している。
研究は線虫C. elegans の初期胚の細胞を用いてすすめている。まず、細胞内構造体が細胞サイズをどのように”認識”するのかについて考察した。細胞分裂時に染色体が娘細胞に適切に分配されるためには、染色体分配装置である紡錘体が細胞サイズにあわせて伸長することが重要である。我々は紡錘体の伸長を様々なサイズの細胞で定量化し、その距離と速さから紡錘体伸長の細胞サイズ依存性を説明づけるモデルを構築した [本年会、原裕貴のポスター発表]。細胞内での物質の動きを考える際には、細胞質の性質を知る必要がある。我々は線虫初期胚でおきる細胞内流動を対象に、定量化した流動の挙動と、細胞質の物理モデルの挙動の比較から、細胞質の性質について考察している [本年会、庭山律哉のポスター発表]。また、細胞の形を規定する基本原理を知る目的で、細胞分裂時の膜の形状についても定量化・モデルとの比較を行い、細胞形状の変形に潜む力学的な要件について考察している [本年会、小山宏史のポスター発表]。本発表では、これらの研究や関連研究について紹介し、細胞内の形や配置、動きを理解するための定量生物学的アプローチの可能性について議論したい。

左右決定機構とそのrobustness

  • 講演者:中村 哲也(阪大)
個体発生現象は、1個の受精卵が細胞分裂を繰り返し、複雑かつ高度な機能をもった多細胞動物を作り上げる非常にダイナミックな現象です。発生過程においては、多数の遺伝子発現の時間・空間的制御、細胞分化・移動、蛋白質の3次元空間移動など数多くの現象が協調して起こる事によって、一つの個体が形成されていきます。
私は発生現象の中でも、「体の左右非対称性がどのようにして作られるのか」という問題に興味を持ち、研究を進めてきました。脊椎動物の心臓、胃、肺、腸等の内蔵臓器の形態は左右非対称である事が知られており、非対称な形態形成の機構(特に遺伝子カスケード)はモデル生物を用いた実験により明らかにされつつあります。
 脊椎動物の発生過程では、体の中心部に位置するノード(結節)で発生する小さく弱い左右非対称な水流が、後のダイナミックな左右非対称性の遺伝子発現を引き起こし、内蔵臓器の非対称性が形成されます。ここで体の左右非対称性の形成過程は、とても小さい非対称な情報を大きく増幅し、明確に非対称である情報へと変換する過程と捉える事ができます。
 今回の発表では、今までに解析を進めてきた、小さく弱い非対称な情報を如何に大きく増幅し安定に左右軸を決定するのかについてお話ししたいと思います。また、現在までの解析から見えてきた次の問題点、特に定量的な解析の必要性等についても皆様と議論できればと思います。


ほ乳類初期発生研究に必要とされる定量生物学とは?

  • 講演者: 藤森 俊彦(基生研)
我々は、ほ乳類の初期発生を研究の中心課題にすえている。ほ乳類の初期発生に関しては、近年の分子生物学と発生工学技術の進歩によって、遺伝子発現やノックアウトマウスの表現型などの多くの情報の蓄積が得られた。一方で、一見対称な形に見える卵からはじまり、我々の体軸に反映される非対称な情報はどのように構築されるか、細胞間にどうやって差を生じさせ細胞分化へとつながるのか、体の形が実際にどう制御され、形成されるかなどの問題は解決できていない。特にほ乳類の胚は柔軟性に富んでいて、初期の発生プログラムがどのように仕組まれているかは、モザイク的発生様式を示す理解の進んだ他の動物と同様な解析だけでは問題の解決は難しいようである。そこで、我々の研究グループではライブイメージングなどの新しい手法を取り入れ、問題解決へ向け研究を進めている。得られたデータを人間の目で観察するだけでは、現象をつかさどる法則性を導き出すことは難しいように思え、数理的解析方法を導入する必要性を強く感じる。我々の手持ちのデータを紹介し、なぜそのような必要性を感じるかを紹介したい。上手い解析方法のアイデア、知恵を授けてもらえないかと期待しております。何か思いあたることがある皆さんは、我々の研究に是非参加して下さい。



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