年会2009ペアプレゼンテーション

From Japanese society for quantitative biology
The printable version is no longer supported and may have rendering errors. Please update your browser bookmarks and please use the default browser print function instead.

第一回年会 (セッション3)実験・理論融合研究のペアプレゼンテーション

日時

2008/01/11 16:45-18:15 セッション3

企画担当者

  • 二階堂愛

概要

新しい分野を切り開くような優れた研究は、ワトソンとクリック、ホジキンとハクスリー、ジャコブとモノーのようにペアで行われることがある。定量生物学のように融合領域では異分野の2人がペアになると力を発揮するのではないだろうか。しかし、ペアで研究するのは簡単ではない。まず、パートナーとの出会いがなければならない。うまく出会えたら目的を共有し分野を越えたコミュニケーションの後、お互いが納得する成果をあげ分ち合わなければならない。このような研究スタイルで素晴しいサイエンスを営むにはどのように振舞えばい良いのだろうか。

このセッションでは、異分野の研究者がペアで研究を進めて成果を挙げつつある若手研究者ペアに講演をお願いし、研究内容とその過程の苦楽について紹介して頂く。二人の距離感が聞き手にダイレクトに届くよう、プレゼンテーションを掛け合い漫才のようにペアでやって頂くことにした。

ワークショップの詳細

具体的なプレゼンテーションの内容としては、次のようなものを想定しています。

a. 研究内容 (なぜ異分野の人間と手を組まないといけないのか)
b. 2人の馴れ初め (どうやって相手をみつけるかの参考になる)
c. わかりあうために工夫したこと
d. 良かったこと・苦労したこと

プレゼンに関しては、2人同時に演題に立って頂いて、かけあい漫才のようにパートナーの発言につっこみを入れるような雰囲気でプレゼンをお願いしたいと思います。普通の学会では見られないようなフランクかつカジュアルな発表で構いません。座長も適当につっこみを入れるような形で盛り上げていきたいと思います。

各ペアの発表時間は15分+質疑応答5分を予定しています。残りの30分では全体での討論を予定しております。

プログラム

プログラム概要

(発表者順, 敬称略)
16:45-17:05 鵜飼英樹・小林徹也ペア: 融合型研究による慨日リズムSingularity現象の動作機構解明
17:05-17:25 広井賀子・舟橋啓ペア: in vivo oriented simulation
17:25-17:45 佐藤雅之・高木拓明ペア: 細胞の自発運動を巡る自発的協同研究
17:45-18:15 全体討論

融合型研究による慨日リズムSingularity現象の動作機構解明

-- 実験・理論の間にはチームプレイなどという都合のいい言い訳は存在しない。
あるとすれば、スタンドプレーから生じるチームワークだけだ。--
  • 講演者:鵜飼英樹・小林徹也ペア
ペアで研究するのは簡単ではない。お互いの苦労は必ずしも共有されず、互いを理解していると思うことは幻想にすぎない。しかし相互理解はペア研究の必要条件であるというのもまた幻想である。by U&K
最近我々は融合型研究によって、特定の光刺激によって慨日リズムが止まってしまう Singularityと呼ばれる現象の背後に存在する機構を解明することに成功した。本研究は融合型研究の1例と考えられるが、特定の条件下で実験と理論の間にチームプレイが生じてしまう実験・理論融合と呼ばれる現象の背後に存在する機構は未だ明らかにされていない。
そこで我々のペアプレゼンテーションは、出会った後に焦点を絞って、研究過程において互いをどう認識しあったのか、そのダイナミクスを互いの対話を通して解析する。そしてその過程から、 いかにスタンドプレーから結果としてのチームワークが創発するのかを示し、融合研究を実際に踏み出せない方の気持ちのハードルを下げることができればと思う。

in vivo oriented simulation

  • 講演者:広井賀子・舟橋啓ペア
効果的なチームワークは各プレイヤーが自分の枠を超えて行くことで生まれる。
仮に私達がバスケットボールかなにかのスポーツ競技にチームで参加しているとしよう。あなたのチームのメンバーは全員、自分のポジションの範囲を一歩も出ないでパスをつなぎ、ゴールを目指し、また守備も自分の決められた位置から一歩もでないで決められた範囲だけで行うとする。一方、相手のチームは、必要に応じて味方の守備、パスワークを助けながらプレイするとしたら、どちらのチームが最後にゲームに勝つだろうか。
問いへの答は置いておくとして、このチームプレイのあり方を研究活動に置き換えると、それぞれどのような活動状態に置き換えられるだろう。
あなたのチームは、実験担当者、理論解析者、それぞれが、相手の分野のことには一切口出しせず、自分の専門の内容を極めることに専念する。時にこのような方法は快適でもある。最初に立てたプランが完璧に近く、役割分担の変更なしでプロジェクト全体が予定通りの完成を迎えられる場合、余計な手間をかけず、自分の専門の仕事の正確性を期すことに専念出来るのは非常にありがたい。
では、敢えてこの快適さを捨てて、専門外のチームメイトに多大な努力と時間を費やし、自分の専門に関する知識を与え、思考力を養うことに協力することが、功を奏するのはどのような場合であろうか。
ここで、バスケの話に戻ってみよう。もし、あなたたちが立っているコートに敵がおらず、すべてのパスがミスもなく予定通りに味方に渡り、ゴールにたどり着けるとしたら、みんなが決められた位置にいて余計な動きをしない方が話が早い。
話が変わるのは、予定外のことが起きる場合である。
実際のコートには相手チームがいて、あなた達のパスを邪魔する。また、あなた達は自らパスをミスしうる。このとき、自分の担当外であることを理由に誰もフォローに入らなかったら、あなた達のチームは自分達のチャンスを失う。同時に、あなた達のミスを見逃さずに状況に応じた対応をする相手チームは、自分達のチャンスを作り出すことが出来る。この、相手チームのチームワークのあり方を、「効果的なチームワーク」とここで定義しておこう。
さて。研究の場合、おそらくこの状況は次の二つの場合に置き換えられるだろう。あなたの目指すプロジェクトが、5年前から完成までの全ての道筋をほぼ完璧に予測出来るような内容であれば、あなたのチームに、効果的なチームワークは必要ない。自分達の専門を極めることに専念し、敢えて専門外の内容には口出ししないで、他の適切なチームメイトに一任すればいい。
一方、もしあなたの取り組むプロジェクトが、三ヶ月先に予定外のおもしろいことが見つかったらすぐに自分が最も大切だと信じられることに自分のエネルギーを費やすことを許容してくれるような、新しい何かを生み出すためのプロジェクトだとしたら、あなたのチームには効果的なチームワークが不可欠だろう。何が新しいことか、違う角度から見たらどうおもしろいのか、その確信を与えあえるチームでなければ、5年前の想像を超えた新規の発見を形に変えて行くことは、不可能なのではないだろうか。
最初の問いへの答えは、それがバスケであれば、両チームのプレイヤーの実力が拮抗していた場合、後者のチームが勝つ確率の方が高いであろう。が、この答えは、どっちでもいいのである。
締めくくりに、本当に大切な問いを一つ投げかけたい。
あなたが取り組みたいプロジェクトは、どんなプロジェクトですか。完成予想図をつぶさに描き表せるプロジェクトか、想像を超えた成長を遂げて行くプロジェクトか。
私達は、効果的なチームワークを意識しながら、古典的な生化学モデルが表現出来なかった反応プロセスを表現出来るモデルづくりに取り組んでいます。

細胞の自発運動を巡る自発的協同研究

  • 講演者:佐藤雅之・高木拓明ペア
ひとえに「生物学における理論と実験の共同研究」といっても、その目的の程度及び実現の程度は様々でしょうし、またそれは当然でもあろうと思います。しかし、本当の意味での

共同研究とは、自分の研究したいテーマが、目下の学問分類では自ずと多分野にわたってしまうような、そうした問いや志を分有する者同士が、中長期にわたって互いに響き合いながら、研究を立ち上げ、それを育てていく協同研究だと思っています。

とはいえ、PIではない若手にとっては、そうした共同研究の芽を育てようにも、様々な拘束条件や境界条件によって、そうそう理想的には行かないというのが現実であろうと思います。むしろ、そうした現実条件の下で最善だけを望んでいても、「最善は次善の敵」という言葉もあるように、なかなか具体的な進展は得られないと考えられます。
そこで、ここでは次善的な方策も含めた意味での具体的な共同研究の例として、約5年前に実験の研究室に異動した理論のPD(高木)と、その年に入学した院生(佐藤)との間で後に立ち上げ、論文出版に到っている共同研究の実際例、即ち、細胞性粘菌を用いた、自発的な細胞運動と走電性情報処理研究の経緯を紹介します。特に理論研究(室)と実験研究(室)のあり方の差異といった構造分析、定量的な実験とデータに拘ることの重要性、といった視点を挙げつつ、少しでも定量的生物学における共同研究の形への一般性のある示唆や議論の種が出せればと思います。

第一回年会のページに戻る