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===周波数変調原子間力顕微鏡による生体分子可視化の現状と展望===
 
===周波数変調原子間力顕微鏡による生体分子可視化の現状と展望===
 
* 山田 啓文 (京都大学大学院工学研究科)
 
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'''1. はじめに'''<br>
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周波数変調原子間力顕微鏡 (FM-AFM) は、非破壊・高分解能表面観察法として既に表面科学分野では広く使用されているが、近年、カンチレバー変位検出系の低雑音化、微小振幅周波数検出が実現したことで、FM-AFMによる液中イメージングが可能となった。これにより、生体分子の高分解能イメージングはもちろんのこと、抗原抗体反応やDNA結合タンパク質の核酸塩基配列認識など生体分子認識における生化学的メカニズムの解明に向けた応用が展開しつつある。本講演では、生理環境下でのDNAやタンパク質分子など生体高分子のサブ分子分解能FM-AFM観察の現状について概説するとともに、最近注目されているフォースマッピング法による分子レベルの3次元水和構造の可視化技術、また液中電荷分布計測の現状についても合わせて紹介したい。<br>
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[プラスミドDNA]DNAにおける特定の核酸塩基配列に結合するタンパク質による塩基配列認識メカニズムは、DNAの表面構造と密接に関連しており、溶液中におけるDNA分子のB型構造の安定性は、周囲に豊富に存在する水和水によって維持されている。近年、DNA分子の相補性を利用してナノ構造を自己組織的に作製する研究が活発に行われているが、このようなナノ構造の表面形状および局所水和構造を分子スケールで評価することは、タンパク質による塩基配列認識・結合のメカニズムを解明する上で非常に重要である。われわれは、マイカ基板に吸着したプラスミドDNA (pUC18, 2686 bp) の液中FM-AFMイメージングを行い、DNA分子のB型構造における二重らせん構造 (主溝・副溝構造) を明瞭に観察することに成功した。さらに、2次元フォースマッピング法によって、DNA分子の最表面近傍に存在する水和構造を可視化することにも成功した。<br>
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察溶液の蒸発を抑制することでモノクローナル抗体の液中分子分解能FM-AFM観察に成功したので、その結果について報告する。<br>
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[IgG抗体]マウス由来のモノクローナルIgG分子 (0.3μM) をマイカへき開表面に吸着させ、液中FM-AFM観察を行った (50 mM, MgCl2中観察)。高分解能観察結果より、IgG分子は、Fc (fragment, crystallizable) 領域を中心とする環状の6量体を形成し、さらには、この6量体が2次元結晶を形成することが分かった。モノクローナル抗体の2次元結晶については、抗原基ハプテンを有する脂質分子膜上で、IgG分子が2次元結晶を形成する例が報告されているが、本実験結果は、抗原が存在しない水溶液中でもモノクローナル抗体が自己組織的に2次元結晶を形成することを示している。<br>
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謝辞:本研究で用いられた装置は、主に科学技術振興機構 (JST) の先端計測機器開発事業において開発された。またIgG抗体試料は、パナソニック(株)より提供された。実験に当たっては、京都大学・工学研究科の井戸 慎一郎氏、小林圭氏およびパナソニック(株)の木宮宏和氏に協力いただいた。ここに感謝いたします。<br>
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'''参考文献'''<br>
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1. [http://piezo.kuee.kyoto-u.ac.jp/en/papers/]
  
 
===光機能性小分子による細胞内シグナル伝達の時空間制御===
 
===光機能性小分子による細胞内シグナル伝達の時空間制御===

Revision as of 14:32, 6 December 2011

第四回年会 (セッション1)定量生物学の要素技術: 生物を「視る」「操作する」「作る」「計算する」

講演者: 山田 啓文 (京都大学大学院工学研究科)、上野 匡(東京大学大学院薬学系研究科)、松浦 友亮 (大阪大学工学研究科)、高橋 恒一 (理研・QBiC)

日時

2012/1/8 11:00-12:30 セッション1

Chair

  • 鈴木 孝幸 (名古屋大学)

概要

周波数変調原子間力顕微鏡による生体分子可視化の現状と展望

  • 山田 啓文 (京都大学大学院工学研究科)


1. はじめに
周波数変調原子間力顕微鏡 (FM-AFM) は、非破壊・高分解能表面観察法として既に表面科学分野では広く使用されているが、近年、カンチレバー変位検出系の低雑音化、微小振幅周波数検出が実現したことで、FM-AFMによる液中イメージングが可能となった。これにより、生体分子の高分解能イメージングはもちろんのこと、抗原抗体反応やDNA結合タンパク質の核酸塩基配列認識など生体分子認識における生化学的メカニズムの解明に向けた応用が展開しつつある。本講演では、生理環境下でのDNAやタンパク質分子など生体高分子のサブ分子分解能FM-AFM観察の現状について概説するとともに、最近注目されているフォースマッピング法による分子レベルの3次元水和構造の可視化技術、また液中電荷分布計測の現状についても合わせて紹介したい。
2. 観察結果
[プラスミドDNA]DNAにおける特定の核酸塩基配列に結合するタンパク質による塩基配列認識メカニズムは、DNAの表面構造と密接に関連しており、溶液中におけるDNA分子のB型構造の安定性は、周囲に豊富に存在する水和水によって維持されている。近年、DNA分子の相補性を利用してナノ構造を自己組織的に作製する研究が活発に行われているが、このようなナノ構造の表面形状および局所水和構造を分子スケールで評価することは、タンパク質による塩基配列認識・結合のメカニズムを解明する上で非常に重要である。われわれは、マイカ基板に吸着したプラスミドDNA (pUC18, 2686 bp) の液中FM-AFMイメージングを行い、DNA分子のB型構造における二重らせん構造 (主溝・副溝構造) を明瞭に観察することに成功した。さらに、2次元フォースマッピング法によって、DNA分子の最表面近傍に存在する水和構造を可視化することにも成功した。
察溶液の蒸発を抑制することでモノクローナル抗体の液中分子分解能FM-AFM観察に成功したので、その結果について報告する。
[IgG抗体]マウス由来のモノクローナルIgG分子 (0.3μM) をマイカへき開表面に吸着させ、液中FM-AFM観察を行った (50 mM, MgCl2中観察)。高分解能観察結果より、IgG分子は、Fc (fragment, crystallizable) 領域を中心とする環状の6量体を形成し、さらには、この6量体が2次元結晶を形成することが分かった。モノクローナル抗体の2次元結晶については、抗原基ハプテンを有する脂質分子膜上で、IgG分子が2次元結晶を形成する例が報告されているが、本実験結果は、抗原が存在しない水溶液中でもモノクローナル抗体が自己組織的に2次元結晶を形成することを示している。
謝辞:本研究で用いられた装置は、主に科学技術振興機構 (JST) の先端計測機器開発事業において開発された。またIgG抗体試料は、パナソニック(株)より提供された。実験に当たっては、京都大学・工学研究科の井戸 慎一郎氏、小林圭氏およびパナソニック(株)の木宮宏和氏に協力いただいた。ここに感謝いたします。

参考文献
1. [1]

光機能性小分子による細胞内シグナル伝達の時空間制御

  • 上野 匡(東京大学大学院薬学系研究科)

生命の基盤となる細胞の機能においては,構成する分子群の相互作用を,シグナル分子が時間的かつ空間的に制御することが重要である.その点から,シグナル分子からの情報伝達に瞬時にかつ高選択的に摂動をもたらす技術は,生命現象の解析において強力な武器となり,画期的な成果を生み出す.近年我々は,小分子が引き起こす,蛋白質の会合現象を利用し,細胞内シグナルに対し,急速にかつ特異的に摂動を与える事ができるシステム (RISP: rapid inducible specific perturbation) の構築とその応用に取り組んできた.具体的には,天然物化合物であるラパマイシンおよびその合成アナログ(ラパログ)が引き起こすFKBP (FK506 binding protein) と FRB (FKBP-rapamycin binding domain) の蛋白質会合現象を巧みに利用することで,特定のタンパク質の細胞内局在を操り,情報伝達系を生きた細胞内で,選択的かつ瞬間的に活性化する系を独自に確立した.これにより低分子GTPaseやイノシトールリン脂質などからのシグナルを瞬時にかつ自在に操ることが可能となった.
我々は更に,RIPS を改良すべく,ケージド化合物とラパマイシンの性質を併せ持つ光応答性ラパログの開発を行った.ケージド化合物とは,光分解性の保護基で生理活性分子をマスクし,一時的にその活性を失わせた分子のことである.ケージド化合物を用いることで,光照射を行う時空間限局的に,シグナル伝達へ摂動を与えることができることから,様々な分野において応用されてきた.一方,一般的にケージド化合物は,シグナル伝達に作用する生理活性分子や阻害剤を,光分解性の保護基で活性をマスクすること設計・合成されるが,個別の開発が必要であるため,標的に対して柔軟に対応することは容易ではなく,また薬剤のもつ,選択性の低さ等を踏襲してしまうという側面も有していた.今回,我々が開発したケージドラパログは,光照射によりラパマイシンの持つ,蛋白質会合の活性を制御できるため,光照射により汎用性の高い RISP を駆動することができる.このことから,1つのキーとなるケージドラパログを用いることで,光を照射する時空間において,急速にかつ特異的に摂動を引き起こせることが可能となった.本会では,我々が今回,新たに開発したユニークかつ実用的な摂動ツールが,有機化学的な手法,分子生物学的な手法を融合させることにより,いかにして開発されてきたのかに触れながら,研究成果を紹介していく予定である.

参考文献
1. [2]
2. [3]
3. [4]

細胞サイズの微小反応場における生化学反応の性状解析

  • 松浦 友亮 (大阪大学工学研究科)

 細胞のように脂質二重膜で区画化されている場所に存在する分子は, 区画の存在の影響を受ける. 分子は小さい区画に高い頻度で衝突するため, 区画表面の物性の影響を受けうる. 遺伝子から生成された蛋白質は区画の存在により, その拡散に制限を受ける. このような小さい区画の性質が内部の生化学反応にどのような影響を与えうるのだろうか?細胞内の混雑効果に関しては多くの実験がなされているが, サイズの効果に関しての実験は少ない. それは、細胞を生かしたまま上手にサイズを変えて内部の生化学反応を定量的に測定することが困難なためであろう. 我々は, これを人工的にサイズ調整可能な細胞サイズの区画(人工細胞)を調製することで達成した. 具体的には, water-in-oil emulsion, リポソーム, マイクロチャンバーなどを用い, 微小反応場を作成し, その内部に無細胞翻訳系など種々の生化学反応を閉じ込めることで, 区画化が生化学反応に与える影響を定量的に明らかにすることを行ってきた. 本発表では, 得られた実験データだけでなく, 理論モデルを用いたデータ解析, 実験結果と理論モデルの整合性についても紹介させていただきたい.

参考文献
1. [5]
2. [6]

細胞環境のin silico表現に向けて--反応ネットワークの観点から

  • 高橋 恒一 (理研・QBiC)

細胞内空間は1ミリリットルあたり数百ミリグラム以上に逹するいわゆる分子混雑の状況にあるだけでなく、細胞膜や細胞骨格、細胞内小器官、ゲノムなどにより高度に構造化され、また細胞内の分子は局在はクラスター化などの影響で不均一に存在している事が知られています。これまでの分子、細胞シミュレーションは、希薄溶液や均一系などのいわゆる理想系を前提としてきましたが、近年の1分子レベルの観察技術の急速な発展を契機に、いわゆる非理想的な細胞環境の重要性が広く認識されつつあります。予測性を持った生命科学の実現は、細胞環境下における反応ネットワーク動態の定量的な理解を基盤に据える事になると思われます。我々の研究室での取り組みのいくつかを紹介します。

参考文献
1. [7]
2. [8]


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