第3回年会セッション2

From Japanese society for quantitative biology
Revision as of 01:02, 2 November 2010 by Ksugimura (talk | contribs) (→‎概要)
(diff) ← Older revision | Latest revision (diff) | Newer revision → (diff)

第三回年会 (セッション2)細胞メカニクスの定量生物学

講演者: 谷本博一(東大)、水野大介(九大)、末次志郎(東大)、鈴木孝幸(東北大)・森下喜弘(九州大)

日時

2010/11/27 15:15-17:15 セッション2

Chair

  • 澤井哲(東大)

概要

細胞の形と力の関係

  • 谷本 博一(東大)

細胞運動は多数の要素が協奏的に働く複雑な過程であり、その物理的な理解のためには形・重心運動・力などの細胞レベルのマクロな指標の間の関係が手掛かりとなる[1]。私たちは典型的な運動性細胞である細胞性粘菌をモデル系として、画像解析と力測定を組み合わせることで、それらマクロな指標の間の関係を明らかにすることを目指している。細胞性粘菌の形は本研究室の先行研究により、いくつかのモードに分類できることが分かっている[2]。この知見を踏まえて細胞-基盤間の接着強度を制御し形を解析し、接着が強くなるにつれて形のモードが進行波的になることを見出した。さらに同じ条件の下で細胞が基盤に及ぼす力場を測定して、力場の大きさが接着強度と正に相関することを見出した。本発表ではこれらの結果と合わせて、力場のダイナミクスの詳細な解析・1細胞での形・力場の同時測定の結果を紹介し、細胞の形と力がどのように関係しているのかを議論したい。

[1] A. Mogilner and K. Keren, Curr. Biol. 19, R762 (2009).
[2] Y. T. Maeda, J. Inose, M. Y. Matsuo, S. Iwaya and M. Sano, PLoS ONE 3(11) e3734 (2008).

細胞骨格の非平衡力学特性と細胞の力学知覚の物理メカニズム

  • 水野 大介 (九大)

細胞内部は、熱的な揺らぎよりもはるかに大きな非熱的な揺動力が絶えず生成して散逸しているために、典型的な非平衡状態にありま す。ここで、非熱的な揺動力とは、例えばモーターたんぱく質がATPを加水分 解して得たエネルギーを利用して生み出す非平衡力のことを指します。従来こうした物質内部で生成している力を定量化する方法は殆ど存 在していませんでした。例えばAFMや微小針を用いた細胞の力測定では、測定 チップに伝達された力を測っているのであり、これは細胞内部で実際に生成している力と等価では全くありません。他方で最近開発されたActive-Passiveマイクロレオロジーと呼ばれる新しい実験的手法では、試 料内部に埋め込んだコロイド粒子の運動に関する”揺動散逸定理の破れ”を観測することで、システム内部の非平衡度(力生成の強さ)を 定量化します。
 この方法を利用してモデル細胞骨格(アクチン・ミオシンゲル)の力学挙動を計測したところ、この細胞骨格は自発的に生成した力(非平衡度)の度合いに応じ て、(自らの化学組成や構造を変えることなしに)その固さを百倍も変化させることが分かりました。また、培養細胞の外部に伝達される 揺動力と外部環境の力学特性との関係を系統的に計測した結果、細胞の揺動力が外部環境に伝達される効率は、外部環境と細胞の硬さの比 に強く依存して変化することも分かりました。この結果は、細胞が自分の力学的な特性を「ものさし」として利用して、外部環境の硬さ・ 柔らかさを測っていることを強く示唆しています。

細胞の形態形成における脂質膜とアクチン細胞骨格の形態形成機構

  • 末次志郎(東大)

様々なチャネルや受容体はある特定の細胞、細胞内ドメイン、組織に局在するように細胞の形態と細胞機能は密接な関わりがあると考えられる。細胞の形態は、脂質膜とそれを裏打ちするタンパク質によって決められている。BARドメインスーパーファミリータンパク質は、そのBARドメインの立体構造によって脂質膜の形態を規定し、併せ持つタンパク質間相互作用のドメインによってタンパク質の分子集積を調節するタンパク質であると考えられる。それぞれのBARドメインタンパク質が機能する細胞膜の器官には、クラスリン被覆小孔、カベオラ、フィロポディア、ラメリポディア等がある。今回は、これらの研究の経緯と定量性の関係についても紹介させて頂く予定である。

四肢発生をモデルとした形態形成のロジックを解明するための定量的アプローチ

  • 鈴木孝幸(東北大)・森下喜弘(九州大)

形づくりのメカニズムは、分子、細胞、組織、器官という異なるスケールで起こる現 象の動的な関係性を明らかにすることで初めて理解できる。各細胞は生化学的・力学 的環境の履歴に基づいて遺伝子発現プロファイルを変化させ、細胞増殖や細胞死、分 化などの細胞応答を決定する。この中でさらに時間的、空間的に細胞応答が異なるこ とで器官固有の組織変形が生じ目的の形が作られる。形態変化と同時に筋骨格系など の解剖学的に異なる様々な組織の分化がおこり、器官としての空間パターニングが実 現される。
 こうしたマルチスケールなイベントを統合するための最初のステップとして、我々は生化学的な環境と組織変形の関係を定量的に調べることから研究を始めた。組織変形は数学的には写像x=φ(X)で表される。ここで、Xは各細胞の初期座標を、xは初期時刻にXにいた細胞が時間tだけたった後の座標を表す。いったん写像φが得られれば、各時刻各細胞周りの変形の様子は変形勾配テンソルによって定量することができる。発表の前半では、Fate map解析という変形に関する断片的な情報から変形写像φを推定するための方法を提案し、その方法をニワトリ後肢発生過程に適用した結果を示す。発生ステージによって体積増加率などの変形モードが段階的に変化する様子が明らかになった。発表の後半では、変形モードとモルフォゲンとしての拡散性分子の動的なシグナル活性の相関を調べるために、組織レベルでいかに生化学的なシグナルを定量的に捉えるか、その実験的手法とその結果の一部を紹介する。本研究では肢芽の細胞集団が受け取る拡散性因子のシグナル伝達を発光顕微鏡を用いてリアルタイムで可視化した。また発光システムは蛍光と比べて定量性にすぐれていることから、発光イメージングの今後の将来性についても述べたい。また本研究は現在進行中であり、今後どのように研究を進めていくかも含めて議論したい。

第三回年会ページトップに戻る
第三回年会セッションへ