第五回年会 チュートリアル 次世代

From Japanese society for quantitative biology
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第五回年会 チュートリアル

定量生物学とオミックス解析の接点

 定量生物学は、顕微鏡を中心とする定量的データと数理的手法を中心に定着してきた。特に物事を少数の因子に限って観測したり、モデルを縮約したりすることで、現象のコアを理解することに大きな貢献をしてきた。このアプローチの背景には「神は細部に宿る」という思想があるのだろう。

 一方で、ゲシュタルト学派的考えでは、「部分の総和は全部であって全体でない」とあり、現象に関わる全体性やその構造を理解することを重視する。このような思想を持つゲノム科学(オミックス)は、定量生物学と対比され、現象に関わる因子のスクリーニングするなど、生命現象の全体像のラフスケッチを得るものと捉えられてきた。

 しかし、超並列型DNAシーケンサーや優れたシーケンス実験技術の革新により、定量性、網羅性、階層性のすべてを兼ね備えたデータを比較的安価に得られるようになってきた。DNAシーケンサーはDNAを読むだけの機械であるが、今では、遺伝子の発現やDNA多型のみでなく、DNA-タンパク相互作用、RNA-タンパク質相互作用、DNA修飾、ヒストン修飾、クロマチン高次構造などの階層的な現象を捉えることのできる汎用的な顕微鏡と考えるべきである。

 定量性に関しても、RNA発現においてはqPCRと同程度のダイナミックレンジで定量が可能であるし、DNA-タンパク質やDNAメチル化は1塩基解像度で捉えられる。また1細胞のRNAを正確に定量することも可能になってきた。

 このような背景で、定量生物学的なアプローチとオミックス的アプローチの境界が曖昧になってきている。本チュートリアルでは、主にオミックスに馴染みのない実験生物学者や数理系研究者を対象に、今、オミックスでなにがどの程度の精度で定量できるかを紹介する。また数理的研究との接点についても紹介したい。

参考文献
ENCODE Project Consortium, An integrated encyclopedia of DNA elements in the human genome, Nature. 2012 Sep 6;489(7414):57-74.[1].


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